パクテーの店


 クアラルンプールの見た感じ場末の庶民の街、と言ってもほんの一角にそんな雰囲気が残っているだけなのだが、なにしろこの都市はピカピカの高層ビルがニョキニョキと伸びている、そのわずかな一角に骨肉茶だったか肉骨茶だったかと書くパクテーの店があって、これまた庶民の台所かと思いきや中国からの観光客が大型最新の観光バスで次々に大勢乗り付けてくるから、観光コースに取り込まれている。シンガポールの料理と言う定義もあるらしいが、クアラルンプールの中華系の人たちは、我こそが発祥の地だと主張しているそうだ。中国人の団体客は、大きな声で話し、喧噪をもたらす。何年か前の黒ウーロン茶のテレビCMでも円卓を囲んで楽しそうに話している場面があったなと思い出したが、CMの方はセレブの宴会風だったのに対して、こっちは庶民の宴会だ。男性はときどき店を見まわし睨み回し、自分だけ損をしてないことを確かめ、次いで自分だけへのサービスを獲得して尊厳を誇りたい、みたいな感じに見える。店のおばちゃんと凄まじい口喧嘩が始まったりするが、それも日常茶飯事がお互いのはったりらしく、表面の勢いとは違い、心の中には興奮はなく制御されているのかもしれない。使う食器は洗面器の中の熱湯に浸してまとめて出てくる。要は消毒されてることの証明なのか。ピンクのプラスチック製の安価な食器なのだった。団体客はどどどっとやって来て、わしわしわしっと食べきって、さっさと去っていく。我々にっぽんのサラリーマン五人組は呆然とした様子で上記のような観察をして、小さな声で話しながら、これまたこの全部が観光なのだった。
 いやなに、もっと別のところにはもっとずっと広く庶民の街区が残っていて、昔ながらのパクテーの在り方も有るのかもしれないが、知る由もないな。