古本祭 その他


 下鴨神社古本祭初日。購入したのは萩原朔美著「時間を生け捕る」(1976)、岩波写真文庫12「鎌倉」(1950)、八木義徳著「遠い地平」(1983)。「鎌倉」の写真は長野重一

 昨日のブログからの続きみたいなところから。思い描いたことと偶然のもたらしたそうならなかったことの「差分」を楽しむ許容度みたいなことが、旅行中にとくに寛容になっているように感じる。
 と、すごく抽象的に偉そうに書いて、具体的なエピソードを書くと、なんだそんなことからそんなおおげさなことを思っているのか!と怒られそうだが、エピソードを書いてしまう。
 今朝、昨晩六道珍皇寺へ行った帰り道に清水通バス停近くの古ぼけたパン屋で買ったパンを食べた。店に似顔絵とその似顔絵を描いてもらったときに撮ったような写真が飾られていて、しかもその似顔絵のご本人と思われる似顔絵よりも年齢が増した店主が、寡黙に私がトレーに載せたパンを包んで会計をしてくれた。似顔絵のこととかを尋ねようかと思ったが、ちょっと逡巡して何も話さなかったけれど。そこで、ピーナッツクリームのパンと、カレーパンと、ずんだのパン、を買った・・・いや、買ったつもりでいた。
 今朝、そのパンを朝食に食べたのだが、まずカレーパンを食べたら確かにちょっと辛くてカレー風味のようだった(すいません私は味覚レベルは相当に低い)のだが、レンコンとか牛蒡がしゃきしゃきと、本当にカレーパンを買ったのかもしかしたらカレーパンを買ったつもりでひょいとその横にあった別のをトレーに載せて、それで、そのことを忘れてしまったのか、とにかくカレーパンを食べているという感じがないまま、なんだか美味しいのだった。
 とそこまではまだしも、今度はずんだのパンを齧ったら、中から板状のキャラメルを中心にしてそれをくるむようにたくさんのチョコレートクリームが出てきたので、これはさすがにこのチョコレートが京都ではずんだと呼ぶのだろうかなどとは思わず、ずんだと書いた札の後ろから取ったつもりが間違えて隣のパンを取ったのだろう。そして予想外のパンを食べているという「偶然の間違い」(間違いに偶然はあるのかな?いや、当然あるな)がおかしくて楽しくて、なかなかいい朝食だった。

 今日は、古本祭りのあとに、鴨川デルタを見下ろせる橋の西詰のボンボンカフェで昼食。買ったばかりの萩原朔美を読む。断然面白い。70年代の映像に関する考察って今読んでも面白いが、それは私が勉強不足なだけで、こういう視点からさらに系統だって評論的なことが進化したのかな?そのときにコロナビールを飲んだら、だからわたしは下戸のうえに最近やますますほとんど飲めない体質に変化しているようなのに、そんなものを飲んでしまうから、だって暑くてやりきれなかったんだも〜ん、もうそのあと炎天下の外に出たら暑さとアルコールで千鳥足状態になってしまった。ふらふら。
 特別公開中の祇園閣というのに登ってみたら、階段を上るのがきついきつい。でもてっぺんで強い風に吹かれているととても気持ちがよかった。東山の山並みの上に不穏な雲が横たわっている。
 そのあとに一澤のカバン屋さんの前に店舗を移したというカフェ六花まで行ってみたら休みの日だった。そこで、その六花の元の店舗をほぼそのまま使っている「喫茶feカフェっさ」に行く。一息つき、珈琲を飲み、AさんとかH野さんとかにメールをし、それから福岡のYIさんに送らなければならない某文章を携帯を使って書く。途中まで。
 元の六花もそんな感じだったけど、この店もご年配の常連さんがいるようで、店主やウェイトレスの女性と親しげに話している。街の喫茶店という位置が確立できるのはいいことだろうな。

 酔いもさめ、そこから一気に撮影にのめりこむ。ランナーズハイとかライダーズハイみたいに、フォトグラファーズハイみたいな感じかしら、かっこつけてしまえば。

 そのあと百万遍に行き、交差点を見下ろせる二階のタイカレーの店でグリーンカレーを食べて、出町柳のジャズ喫茶ラッシュライフで珈琲を飲んだ。ラッシュライフではピアノのジャズが流れていて、そのうちに曲が「四月の思い出」になる。この曲は、私が1976年ころに最初にジャズを聴き始めて、最初にエアチェックした渡辺貞夫マイディアライフで演奏されて以来、最初に覚えたスタンダードとしてずっと好きな曲なのである。だからびびびっと反応してしまう。そして誰の何のアルバムに入っているのかと、レコードプレイヤーのあたりをちら見したりする。店主が次のLPと交換するときにそのアルバムジャケットが見えて、どうやらジョン・ルイスハンク・ジョーンズの名前が見えたが、その二人のデュオがあるのだろうか?ラッシュライフの客は常連ばかりのようで、私はカウンターの片隅で、一人読書をしている。今日の私は緑の短いズボンと、メリルのカモノハシの口みたいな形の靴と、先日御殿場のビームスアウトレットで買った兎の絵の描かれたTシャツを着ていて、自分でもどうかと思う格好である。森おじさんみたいで恥ずかしいのだった。そんな格好でジャズ喫茶の、私よりもさらにご年配の方ばかりのいる空間に存在していることが場違いである。

 やがてご年配のこれも常連らしき女性が入ってきて、唐辛子入りの韓国製のチョコレートが手に入ったわ、と言っている。そして、そのチョコが配られて、一つ私にも回ってくる。当然のごとく「あっ、どうもありがとうございます」と言ったら、それだけなのに、みなさんからちょっと笑いが漏れた。ということは、常連さんたちも一見客の私に、なんとはなく注意喚起の観察を怠らずにいたのだろうか?それで、私が普通の受け答えが「できた」のでほっとしたのだろうか?
 チョコは甘辛くて面白い味がした。チョコを食べ終えてから、チョコを持ってきた女性にお礼を言いつつ店を出た。

 明日はまた雨らしい。


木屋街あたりを歩いていたら、何も張られていないボードが破れていて、その形が上へと飛び立った鳥のようだった。


こういう路地の壁を背景に、そんなことは滅多に思わないのだが、黒い服や白い服を着た蓮っ葉な、いや、蓮っ葉でなくてもいいんだけど、モデルを立たせてみたいと思った。


店内改装中の店。