葉山


 震災から一年が経った。
 朝は曇っていたが、昼過ぎからはだいぶ晴れてきて、久々に春らしい暖かい日になった。昨日、梅庵のふるほん市にいらっしゃったお客さんが話していた展覧会を見に、電車とバスを乗り継いで、鎌倉県立近代美術館葉山に行った。「全ての僕が沸騰する〜村山知義の宇宙〜」という展覧会を見た。そのあと、葉山町のバス通りや裏道を、海に沿って北へと歩いた。写真を撮りながら。
 どこからかテレビかラジオかの音が聞こえた。被災者の方が、誰かに「ありがとうございました」と言っているのが聞こえた。ありがとう、と言うのが決まりになっているのかもしれないな。本当は、ありがとう、なんて言いたくないほど、怒っていたり悲しんでいたりすることが、あるのだろう。
 それから、そんなことを偉そうに考えながら、春が気持ちいいや、と、のんびりと散歩している自分が、急に嫌になった。私こそが怒りの何分の一かを受けるべき不遜な輩の末裔なのだろう。
 でも、その輩の末裔は、そんなことを一瞬考えただけで、また、光と影が織りなす風景に見とれて、いま考えていたことを忘れて写真を撮って行く。
 帰宅してから写真のデータを見たら、DAYS386というカフェ(バー)に入って昼食にサンドイッチを食べ、珈琲を飲んだ、その店に入る数分前、バス通りを歩いているそのときが、一年前に地震が来た時間だった。
 DAYS386を出て、森戸の海岸まで道を下る。満開の梅とオリーブがブロック塀の上に伸びている。新しい春。

http://www.days386.com/ 居心地の良い店でした。1986年にパリで開かれたのかな?くしゃくしゃになっているゴダールのイベントのポスターが貼ってあって、それがまず目を引いた。その近くにはマーチンのD28(かな?)が置かれている。