函館 2日目


函館に行くにあたって、ネットや本でいろいろと調べていたら、映画のロケ地めぐり案内などが出ました。そういえば函館にはイルミナシオン映画祭というのがありますね。そこで、事前になにか映画を見ておこうかな、と思いました。ネットで調べた中から「オートバイ少女」とか「キリコの風景」とかのタイトルを頭の中にメモっておいて、14日くらいにTSUTAYAに寄ってみたら、両方ともありませんでした。ところで、調べたサイトなどではほとんど触れられてなかったのですが、篠原哲雄監督が函館で撮った「オー・ド・ヴィー」(2002)という映画があります。私は2002年に出張で取引先の会社と打合せしたあとのある夕方に、たしか有楽町の駅の近くにあった単館系の映画館に行ってみたらやっていたので見たように思います。この映画は全編函館ロケの映画で、主演の小山田サユリが魅力的で、不思議な物語と相まって、その後何度か見返しました(なんと、DVDを買ったのです)。旅行の前に「オー・ド・ヴィー」を見返すことはしませんでしたが、場末の怪しいバーに流れ着いた女が謎に包まれた蒸留酒を飲んだ後、その翌朝に砂浜で全裸死体で見つかるというミステリーがしかけてあるこの映画で、その朝につながる前の夜遅くに、女が大きな荷物を引きづりながら操車場に迷い込む場面がありました。そんな場面を思い出して、あの操車場に行ってみようかなと思いました。地図を見ると、函館駅の海側にたくさんの線路が描いてあります。すなわち、多分、この線路のあるあたりがロケ地だと推定しました。朝、新しい函館駅の前を通って港の方に行きます。線路のある領域の回りには建物があって、線路を見える場所はなかなかありません。海と線路のあいだの岸壁に沿って歩いて行きますが、いつまでも線路は見えません。岸壁というのか埠頭というのか、そういうあたりは殺伐としていて、でもこの殺伐とした感じが、夏草が立ち枯れていたり未舗装の駐車場にトラックが停められていたり、工場の倉庫があったり、そういう感じが、私は嫌いではありません。そして、そのうちやっと雑草の向こうにディーゼル機関車DD51が止っているのが見えました。もちろんJR北海道関係者以外は立ち入り禁止なので、その禁止の手前から眺めました。さらに行くと、製粉会社の先にやっと歩道橋があり、線路を渡れるようでした。長い階段を上ってみたら、上の写真のように函館山を背景にして操車場(だった?)線路がたくさん敷かれている風景が見えました。映画というのは広域に絶妙なライティングをして、ときには人口の霧を流したりもしているでしょうし「オー・ド・ヴィー」の場面は夜でもあるので、この歩道橋から見てもあの場面にはなかなかつながりませんでした。まあ、そういうものでしょう。だからと言ってがっかりしたりはしないですね。初めての町を歩くのはそれだけで新鮮で楽しいものです。
 さて、その後、朝市で海鮮丼を食べ、五稜郭タワーに上り、午後には教会めぐりをしました。
 途中、五稜郭あたりでは音楽とカフェのSOUNTRAに寄りました。ドアを開けると下北沢のオトノマドよりさらに広く、もう少しラフな感じでCDが並べてあります。その先の部屋がカフェで、ここはブックカフェと言ってもいいくらいたくさんの本が、本棚に並べてあるだけなく、ときには積んであったりで、こっちは余白やさんの鵠沼実店舗があったころのお店より若干整理されている感じでした。村上春樹とか川上弘美とか吉田篤弘とかの本が目につきました。そんな中にウィリアムクラインのニューヨークの写真集がありました(有名なニューヨーク・ニューヨークの収録作を含む、ニューヨークスナップの総集編のような大きく厚い写真集でした)。いまでウィリアムクラインの写真集をじっくりと見たことが恥ずかしながらなかったので、ゆっくりとめくりました。見ていると、そこに写っているブルックリンは、この1月に葉山の美術館で見たベンシャーンの絵とも重なるようでしたが、時代は似ているのかな・・・(いや、ベン・シャーンの写真や絵は不況の1930年代だから違いますね)。貧しいけれど楽しそうなギャング遊びの子供たち。CD店で視聴してThe American Analog SetのCDを一枚購入しました。コーヒーも美味しかった。店主の青年によると、翻訳家のMSさんがふらっときて、ここで仕事をしていったこともあるそうです。たしかに居心地のよい空間でした。よいカフェでした。一冊だけ持っていたニセアカシア3号を店主にお渡ししてきましたので、気に入っていただけたら、もしかしたら店内に置いていただけるかもしれません。
 一旦ホテルに帰ったあと、夜9時過ぎに、カメラを持って、金森倉庫あたりからずっと摩周丸まで歩きました。下の写真とかです。その途中、映画「オー・ド・ヴィー」で傷ついた小山田サユリが海を見ていたと思われる場所がありました。ここで通りかかりの青年に声を掛けられて怪しいバーに行くことになるのではなかったかなあ。
 ガイドブックに載っている有名店に回る気力はなかったものの、ホテル近くで営業していた食堂で函館ラーメンを食べました。函館の温度は30℃というこの季節にはあり得ない高温だった日、夜の9時過ぎでも28℃くらいはありそうです。おばちゃんが一人、冷房装置のない店の厨房で大なべでラーメンを作ってくれます。もう一人の若い青年は急行列車の出発待ちで食べ終わったあともテレビを見てくつろいでいます。赤い地の大漁旗が壁に止めてあります。扇風機は壊れているのか回っていません。色あせたサイン色紙が貼ってあります。香川京子という名前が読めました。ラーメン、美味しかったです。函館ラーメンは透き通ったスープの塩ラーメンです。
 それにしても、夜に、防波堤で一人で釣りをするのって結構怖いと思う。