阿蘇 黒川温泉


 10/11金曜に休暇を取り、13日までの旅程で熊本と大分へ旅行。同行Mの二人旅。阿蘇熊本空港に到着した13時過ぎは小雨で雨雲が空を覆っている。空港内のレストランで昼食を取ってから、レンタカーで出発する。車種はインサイト。癖のある車で慣れるまで(いや、最後まで慣れなかった)たいへん。特に足がブレーキペダルを踏む感覚と実際の減速の感覚が、とくに低速時にずれるのでぎくしゃくする。ハイブリッド車の二つの駆動源の切り替えの味付けの問題なのかな。

 まあ、そんなことはさておき、走り出しても小雨が続く。ミルクロードに入ると霧も出ていて、運転に気を遣う。持ってきたCDのうちの一枚、ザ・バンドの「アイランド」をかけていく。ザ・バンドのなかでは駄作と言われている作品で、その根拠はロビー・ロバートソン自身が後日「あれは寄せ集めのアルバム」みたいなことを言ったからのようなのだが、私は好きなアルバム。一曲目の「優しい雨のように」はザ・バンドの曲では珍しくソフィスティケートされた都会的に洒落た感じの曲だと思う。その曲を聞きながら小雨と霧の中カーヴを辿るように両側を牧草地に囲まれた尾根道と走る。なんて書くとなんだかいい感じだが実際には緊張して運転をすることになっている。

 装備されているナビも古い機種なのか、位置精度が最新のものより低いし、選ぶ道も目的地の咀嚼も気配りに欠ける感じで、大観峰にいくまでに二回もナビに裏切られてUターンする。いや、ナビが間違えているというよりナビの主張とこっちの希望が経路選択において噛み合わないということなのだが、そういうのも気分をダウンさせる。例えば尾根上のミルクロードを走っているのに、ナビはそこからいちど降りてから登り直すように指示を続ける。(同行MがiPHONEで経路検索すると、希望通りの道が示されるのだが)

 しかしそういう時間のロスがあったからか、途中のかぶと岩展望所の手前から雲のあいだに青空が見え始め、そのあと雲がどんどんと流れていき、つかのま晴れたり、また曇ったり、といった雨上がりの時間になり、晴れると澄んだ空気に遠くまで見渡せる。2010年5月に一人でこの道を走ったときには牧草地は濃い緑だったが、いまは枯草色に覆われている。大観峰に着いたときには再び霧の中だったが、駐車場から数百メートルある展望場所まで歩いていき景色を見ていると、こんなふうにもう西に傾いた太陽の光が雲間から差し込み、束の間刈り入れ時を迎えている水田地帯を照らすのだった。(本当の景色はこんなにコントラストが高くはないので、少し画像処理をしています)

 「五足の靴」という本は持っているけれど読んでいない。吉井勇はこの大観峰でこんな歌を作ったそうだ。
『大阿蘇の山の煙はおもしろし空にのぼりて夏雲となる』

 彼らがみた夏雲も噴煙も見なかったが、私の見た景色も悪くない。

 そのあと、ライ・クーダーの「チキン・スキン・ミュージック」を聞きながら山を降りて行き、今日の宿は黒川温泉。「チキン・スキン・ミュージック」は学生のころによく聴いたものの、最近は滅多に聴いていなかった。それなのにいざ曲が流れだすと、たとえばアコーディオンのたどる旋律を口笛や鼻歌でちゃんと辿ることが出来るのだった。若いころの記憶は恐ろしく強固だな。

五足の靴 (岩波文庫)

五足の靴 (岩波文庫)