この一週間


 14日月曜日。鎌倉宮薪能ステージで開催されるROOT CURTURE FESというイベントに行ってみる。細野晴臣高田漣や青葉市子とともに出演するのを見たかったので。暮れ行く空をバックに、季節外れの「夏なんです」(はっぴいえんど時代の曲だ)から、最近のHOSONOVAから「ラモナ」や「悲しみのラッキースター」など。懐かしい「香港ブルース」なども演奏される。途中青葉市子がソロで「レースのむこう」を歌う。青葉市子の澄んだ高音にびっくり。演奏に応えるように会場を取り囲む木々のからシジュウカラらしき鳥の声が聞こえる。どんどん寒くなる。持ってきたコットンのカーディガンを着込む。さらに時刻が進むと烏が上空を鳴きながら飛んでいく。

 15日火曜日。黒島伝治作品集(山本善行選)「瀬戸内海のスケッチ」読了。先日のTOKYO ART BOOK FAIR 2013で小豆島の出版元のサウダージブックスが先行販売していたものを買ってあった。一番長い田園挽歌という中編小説こそ終わり方に小説的な結末を感じたが、それ以外の作品の素っ気ない終わり方(小さな悲喜劇は進展を見せないままぶつりと終わる)が小気味よい。いまの作家たちにはもう書けないような小説なのだろう。昭和歌謡をそれらしく再現できても同時代的には再現できないように。

 16日水曜日。台風で電車が動かない。茅ヶ崎自宅から午後に浜松町で予定されていた仕事(会議)に行くためにほとんど動いていない東海道線を見捨てて、相模線→小田急線→中央特快→山手線で3時間半を要す。
 さいご、新宿から山手線に乗ろうとしたら、ホームからこぼれんばかりの人で、東京経由になる。途中、新宿駅で外に出て立ち食いソバ屋(座る席もあるけど)で「かきあげ蕎麦卵載せ」を食べる。隣の若いサラリーマンはわかめ蕎麦。わかめがどれくらい載っているのか見たくなるが見ない。

 19日土曜日。渋谷のイメージフォーラムで上映中の映画「世界一美しい本を作る男」を鑑賞。ドイツの写真集などアートブックを出版しているシュタイデル社のノンフィクション映画。どんどん決めていく、頭でわからないことはどんどん試作して見極める。ある意味、容赦ない。ロバート・フランクに、向こうで話しているからそれまでに残りの決まってない写真を選んでくださいと言う。ジョエル・スタンフィールドの本のサイズに関する最後までの逡巡をきっぱりと断ち切るようにこれでいいと確信させる。タイトルは、サブタイトルは、巻頭の文章は入れるか、等々の打ち合わせも手早い。一方で紙質や色合いなどの決定は、それも効率的でムダはないにしても、必要であれば大きく立ち返って追い込んでいく。ぐだぐだ時間をかけずに作ると決まればどんどんとスピード感を持って進めていくのが小気味よい。ずっと休んでないの?とロバート・フランクの奥さんが聞く。シュタイデルは「休んでない」と答え、奥さんはそれに対してなにも言わないが、表情は少し険しいかもしれない。

 19日土曜日。六本木のタカイシイで鈴木清の写真展。数年前に東京都近代美術館で鈴木清の大規模回顧展を見たことがあったので、初めて見る写真というわけではないものの、またあのときの感情が復元されて揺り動かされるといった感じだ。

 19日土曜日。銀座のアルマーニビルの上階ギャラリーで開催中の1970年前後の日本の写真家の写真を集めた展示を見る。森山大道氏のワークショップの日だったらしくご本人が会場にいらっしゃる。森山さんの周りだけテンションが上がっている。オーラ。女性ファンがTシャツにサインをもらって感激している。その森山大道は「写真よさようなら」を展示。壁面を見渡せるソファーに座ったカップルの若い女性が、かっこいい、と何度もつぶやく。「写真をさようなら」が出たあと、今までのあいだに、このような暴力的で感覚的な写真も少しは見慣れていて、そこに感じる驚異みたいなことは縮小してしまっているのだろうが、それでも「70年、懐かしいね」という懐古に埋もれずにいまでもエネルギーを発揮している。
 そういう感じは須田さんの「わが東京100」や内藤正敏「東京」にも同じく、いまも生々しい。むしろ今の東京は本当はこの生々しさが洗われてしまっていて写真にだけ残っているのか。「だけに残った」ことがそれなのに懐古にならないのは、本来であれば、この生々しさは、あるべきことだからなのではないか。

 19日土曜日。午前10:15茅ヶ崎発の湘南新宿ラインで渋谷へ(上記の映画鑑賞のため)。休日の午前の上り電車は混んでいるのでグリーン券を購入。二階席に座る。グリーン車の検札や飲食物などの販売を担当するグリーンアテンダントの女性が二階に上がってきたその瞬間、私のすぐ後の席に座っていた三歳か四歳だろうか、小さな子供の声が響く。「あ、魔女だ!」
 グリーンアテンダントの女性は髪をひっつめて後ろで結んでいる。たしかに千と千尋の映画のユバーバでもムーミンに出てくる魔女クラリッサにしても、そういう髪型をしていたな、と思い出す。尚、魔女と呼ばれたグリーンアテンダントは背の高いきれいな方でした。

 19日土曜日。夕方藤沢カフェパンセで珈琲と、ジンジャーのケーキを食べる。Yさんと雑談。アボカド選びの失敗についてなど。帰り道、ユニクロでワイシャツと黒いカーディガン購入。帰宅後家族に、高校生の着るようなカーディガンだと言われる。タワレコベツレヘムレーベルのCD1000円×2枚購入。

クロード・ウィリアムソン・トリオ

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ラウンド・ミッドナイト

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