足利と伊勢崎


 3/20木曜は荒天。風強く吹き、昼前より雨。天気予報によれば日本海側や東北および北海道は大雪らしい。一方、四国や九州では桜開花が始まっている。最初に開花した高知県が17日か18日だった。東京はそれより平均的に7.5日あとに開花するとニュースで言っていたが、それは高知県が最初に開花した年を1990年以降だったか2000年以降だったか抽出し、その年の、高知の開花〜東京の開花のあいだの日数を平均したものだったか、元のデータがテレビ画面に映っていて、すごく分散が大きかったから、7.5日というのはたいしてあてにならない。そうは言っても、7日後だとすると、東京の開花は25日くらいで、開花から満開は一週間とすると、4/1あたりが満開かな。なんていう計算をしてしまうのは、桜を待っているということなのか。まあ、まったく興味がなければこんな風に計算なんかしないから、満開がどこかの土日に当たれば、写真を撮りに行こうなどと思っているわけだ。と、行為から逆算してなるほど自分はそういう期待をしているのか、と判る。平和なもんです。
 それでそういう計算をしていたのは木曜夕方の6時くらいで、そのあと同僚の、平日に栃木県U市にいるときのアパートの近所に住むAさんが呼んでくれたタクシーに相乗りしてとある中華料理店に行く。Oさんが、定年を数か月前にして、会社を辞めて次の仕事に移るための送別会に出席のため。
 夜9時に送別会が終わったときには雨はやんでいたが、昨日一昨日の4月の陽気が嘘のような寒さだった。木曜の夜に茅ヶ崎には帰らないことにして、アパートに戻り、U市に泊まる。

 3/21金曜日、国民の休日たる春分の日は4時前に目が覚める。昨晩の食べ過ぎで腹が苦しい。ストレッチをしてから血圧を計ったら、もしや高いのではないか!?という不安をよそに、130-80くらい。朝風呂に入ったあとに、最高気温予報が14℃あたりなのでそんなに寒くはないであろうと想定し、インナーのダウンのないスプリングコートをはおり、その下はコットンシャツに薄手のセーターにして、そのくせなぜかヒートテックタイツを履いた下半身と上半身の防寒度合が全くもってちぐはぐしているな。と、思いながらも是正せずに6時半にアパートを出て駅まで歩く。風、相変わらずすごく強い。まださっき風呂にはいった名残の熱が残っているからそんなに寒くない、これは上半身が正解で下半身のタイツは余計だったな、と思うが、これはとんでもない間違いだった。

 小山で両毛線に乗り換えて足利へ。降りると、さらに風は強まり、風の通り道になっている交差点などでは真っ直ぐに歩くことすらできないほど。スプリングコートに付いてた、いままで一度も使ったことのない風防(フード?)を被り、被ってもすぐに風にはがされるから、手で押さえて歩く。なぜかバッグの中に毛糸で編まれた指先だけが外に出ているカメラマングローブがあったから助かったな。
 足利学校は9時オープンで、8時55分くらいに着いたので、じゃあ入ってみようかなと(以前もいちど来ているので、入らなくてもいいんだけど、まあせっかくだから、って感じ)強風のなか待っていたら、1分前くらいに入れてくれたかな、一番客。
 足利の街、駅周辺の商店街にある雑居ビル、飲食店が入るような、あるいは事務所が入るような、アパレル店が入るとかも、そういうビルが全体傾向として、ローマ風が多いのではあるまいか?そういう建物が、空き室だらけだったり、廃墟になっていたりで、でもあっけらかんとしている。前に来たときもそうだったと思うけど、それから10年くらい経っても、じゃあ街がさらに寂しくなったり荒んだりしているかと言うと、そんな風でもなく、この状態程度が維持されてあっけらかんと、だから結構楽しげに街が維持運営されているのかもしれないぞ。

 なぜ、足利に行ったかと言うと、数日前のこれまたテレビなんだけど、夕方の6:45からの栃木県版のNHKニュースで足利市の西渓園という梅の木が山の斜面に千本以上植えられているところがあり、それが見ごろであるということを放送していた。それが理由。
 街のなかをあっちこっちと、路地の先になにか面白そうなものが見えればそっちに行き、行き止まりならまた戻り、なので、歩いて片道で駅から3kmは苦にならず。たどり着いたら、確かにたくさんの梅の木が山の斜面を覆っているのは壮観である。しかし、それぞれの木がすでにもう相当の老木なのだろうか、花の勢いがない。花が少ない。中には立ち枯れているのか花を一つも付けていない木もあるのだった。すれ違ったおじさんが「前はもっとたくさん咲いていたのに、××の管理になってから手入れが悪くてだめだな」と、私に、学級会で先生に誰かのいじわるを被害者本人でないのに言いつける風に言って行くが、××が聞き取れない。だいたい、客はほとんどいない。広大な敷地だからはっきりとは分からないが、私がすれ違った人は計五人くらいだった。入口には仮設トイレまで設置されていたから、これはたぶん一番の花期は一週間前の土日で、そのときは斜面の上から見ると白梅の花が連なって雲のように見えたのではないか。そして大勢の人がやってきて、トイレにも列が出来ていたのではないか。その仮設トイレの近くに立札があり、イノシシ駆除のため入山中、といったようなことが書いてあった。映画「スイングガールズ」で楽器を買うためのお金を稼ぐために松茸狩りに山に入り、イノシシに追いかけられる場面があったのを思い出した。映画のように咄嗟に木に登ることなどできないから出てきたらどうしようか!などと一瞬だけ思ったりした。

 足利は渡良瀬橋がある。歩いていたら渡良瀬橋に出た。すると当然、頭のなかで森高さんの「渡良瀬橋」のメロディが流れだしているのだが、町内のフリーマーケットだったかを案内する車が、廃品回収の車のようにゆっくりと放送を流しながら通り過ぎたその放送のバックにも「渡良瀬橋」が流れていて、びっくりするようなことではないわけだが、あまりにもその通りでびっくりしたのだった。

 足利のあとに伊勢崎にも立ち寄った。伊勢崎はローマ風のビルは見当たらず、足利とはまた違う風情だ。こっちは、武田花写真集「眠そうな町」に写されたような廃墟が何か所もあった。壁が落ちた看板建築もあったし、派手な赤いカーテンが残っているのに入口がべニヤで封鎖されたホテルみたいなのもあったし、窓の庇がくずれている理髪店だか美容室の廃墟もあった。そこに乾いた強い風が吹いて行き、空は真っ青に晴れている。これが曇天や雨天だったらそうは思わないのかもしれないが、足利も伊勢崎もあっけらかんとして、そういう「廃墟」とか「封鎖」とか「空き室」とかいうものがたくさんあるのにその単語が似合わない、というか意味がひっくり返されて、カエルの腹を撫ぜると死んだようになってしまうのがあっけらかんと可笑しいような、そんな街はなかなかに面白い。

 これらの写真をモノクロ変換してコントラストを強めると武田花風になるのかな?