相模川河川敷


 朝、目が覚めると本棚が斜め左前方に見える。3月に、普通のサイズよりも幅も長さも小さなベッドをネット通販で買って、それを一番北の部屋の窓際に設置した。スプリングも程よく、寝心地は良い。冬になると寒いかもしれないが、いまのところは快適である。そこに寝るように変えてから、ちょうど起きると二つ並んで設置されている背の高い本棚がよく見える。左の本棚は主に写真集が入っている。右にも写真集があるが、ほかにCDや文庫や単行本や雑誌まで雑多にある。
 今朝、寝ながら見上げていると、オレンジ色の装丁の薄い写真集が見えて、あれは當麻妙写真集「Tamagawa」だったなと思い出した。2003年ころだったか、ネットが普及し始めて、まだブログやらSNSやらはなくって、ホームページビルダーやホームページニンジャとかのHPを簡単に作れるアプリを買っては、個人がたくさんHPを作っていた。その頃にこの写真家のHPを見つけて、自費出版の写真集を買ったのだった。
 そこで起きてからその写真集を久々にめくってみた。多摩川の河原や川沿いの道、河川敷、などに点景になって人が写っている写真集だ。たぶん中版カメラで撮ってある、ニューカラーの風味があるような写真集。気持ちのよい五月の(五月だけではないだろうが)昼間の風が吹いている、そんなような。
 片岡義男の短編「バドワイザーの8オンス缶」(8じゃなくて5だったかな・・・)は五月の第二だったか第三だったかの金曜の夕方から始まったように思う(確認するのがめんどうだからうろ覚えのまま書いているけれど)。なんてことはない使い捨てのような(?)通俗小説のようなもんの一つに過ぎないのかもしれないが、私という個人がこの小説を読んだ二十代前半のときのさまざまなこちらの条件が積み重なって、私にとってはこの小説がものすごく記憶に残っているようになった。五月のさわやかさをテキストで読んで、それがアシストして以降、五月を五感で感じる感受性が上がったなんてことさえあったかもしれない。
 それで當麻妙写真集を見て、片岡義男の短編も思い出し、外は晴れていて、ちょっとだけ開けて置いた窓からは涼しい空気が入ってくる朝の7時台で。それで、きわめて単純明快に多摩川に行くことは(遠くて)難しいので、相模川を見に行くことにした。
 少し時間が早く過ぎたのか、河川敷のサッカーやフットサルや野球のためのコートはまだあまり人がいない。この写真よりもっと下流にはひなげしが満開の広いお花畑が、あって、カメラマンが数人、マクロレンズで写真を撮っていた。
 写真集や小説から思いを馳せる想像の五月と、今朝の五月の朝のそのときそのものが、うまく合致していて気持ち良い時間だった。