雑誌の写楽


 写楽という写真雑誌を1980年かな81年かな、創刊号が、森下愛子篠山紀信が撮った巻頭グラビアを売りに大々的に発売されるのだ!という宣伝につられて、なんと!発売日に会社から休暇をもらい、当時は横浜の北の方の田園地帯、開発中の田舎にある会社の寮に住んでいたのだが、最寄りのまだ仮駅舎だった、伸びてきたばかりの東急田園都市線の駅前から、横浜市営バス横浜駅行きに揺られること40分かもうちょっと、国鉄時代です、横浜駅の西口に出て、開店とほぼ同時に地下街の有隣堂書店に入り、創刊号の写楽を二冊、買い求めた。以降、その本が廃刊になるまで、途中の一冊か二冊を買い忘れたようだが、ほぼ全冊を買って、しかも捨てられずについこの前まで部屋の片隅に結構な体積を占有しながら置かれていた。
当時は森下愛子のファン、というほどの熱意でもないか、まぁいいや、ファンだった。学生時代に映画「サード」を見てから。新宿の紀伊國屋書店のホールだったかな、映画監督東陽一の映画上映×主演俳優とのトークショー(当時はトークショーなんて便利な単語はなくって座談会とかいっていたのかも)を三夜もしくは四夜にわたって作品と俳優を変えながら行うというイベントがあったときには、風邪をおして、出掛けたりしました。上映映画が「サード」の日が監督と森下さんのトークショーだった。他にも、関根慶子と監督のトークショーの日にも行った。東陽一監督の関根恵子(現・高橋恵子)主演映画はウィキペディアによると映画「ラブ・レター」で、その解説には
『『ラブレター』は、1981年公開の日本映画。東陽一監督、関根恵子(現・高橋惠子)、中村嘉葎雄主演。にっかつロマンポルノ10周年記念エロス大作。カラー / ワイド / 83分。
詩人・金子光晴と34歳年下の女性の、30年にも及んだ愛人生活に取材した江森陽弘のノンフィクション作品『金子光晴のラブレター』が原作。ロマンポルノの枠を超えた異色の豪華キャストと成人映画色を抑えた宣伝のおかげで、女性客が上映館に足を運ぶ異例のヒットとなり、にっかつロマンポルノ史上最高の興行収入を上げた。』
とある。この映画はこのときの紀伊国屋ホールでの上映でしか見たことがなくて、しかも内容はほとんど何も覚えていない。それが金子光晴のことを描いた映画だったとは、いま初めて知った次第である。
この文章は脱線に脱線を重ねていて、そういう傾向は加齢とともにどんどんと進んでいるようで、どの範囲でうまくくくって終わるか、というか、終わることができるか、が難しい。
 話を元に戻すと、そんな風に森下愛子のちょっとした程度のファンだった私は、写楽の創刊号が売り切れてしまうのではないか、という強迫観念と言う単語はきわめておおげさだが、そういう気持ちに急かされるようにして休暇まで取って、開店と同時に有隣堂に行き本を買ったのだった。
 で、またちょっとだけ話が戻って脱線してしまうが、この東陽一週間のようなイベントは写楽創刊より後だったと思うが、監督が森下に「サードのころはまだ恋愛経験が少なかったんじゃないか?女優は経験が大事だけど、その後はどう?」みたいな、いかにも若い男性観客を意識したようなサービス質問をして、すると森下は、けっこう堂々と、経験は積んでいて私はちゃんと女優として成長してますよ、的な答えをしていたように思う。
 しかしこの東陽一週間では「沖縄列島」という(記憶が正しければ)モノクロのドキュメント映画の印象が強く残っている。
 話を戻して、その写楽という雑誌だが、この本は創刊号の森下愛子を皮切りに、その当時の若手女優がグラビアで脱いだり半分脱いだりするのが「売り」のようなところがあって、手塚里美とか、やれだれそれだれそれが次々と登場して、驚かされた。本の作りも創刊から二年くらいのあいだは、表紙が写真だけで、よくある特集の内容を表紙に告知するなどをしていないシンプルな作りで特徴があった。
 ところで、あのころ、70年代から80年代、女優もアイドルもいまよりずっと、すぐに脱いでいたと思うのですね。あれはまだ世の中の表現行為の新規開拓の「未開拓分野が目の前に広がっていた」というより「未開拓分野が目の前に広がっていることを前提に表現者たるものそこに挑戦し続けるものなのだ」という不文律的な「××たるもの、××であるべし」というようなことが残っていたからなのかもしれない。まあ、そんなことを前面的理由にして製作者も鑑賞者も、若干もしくは相当な助べえ心で女優さんたちの裸を見たい、もちろん経済効果的にもそれの有無に左右されるからぜひともそういう場面をはさむ必要がある、というのが本音だったに違いない。そして女優さんたちの気風もよくって、そういう前面不文律と裏面の助べえ心もしくは経済理由を天秤にかけながら、しゃあねえなあ、って気分でぱっぱと脱いでいたのかもしれない。森下愛子桃井かおり、手塚里美、秋吉久美子松坂慶子原田美枝子関根恵子竹下景子、たち。けいこ、が多い。
 アイドル歌手たちも、脱ぐまで行かずとも、ノーなブラのままで水着グラビアに出ていた時代です。
 そういうふうに創刊以来のほとんどの写楽をずーっと持ち続けていたのだが、先日にとうとう刊期の後半の分は捨ててしまった。ネット古書店価格によると平均五百円くらいで高い号は千円とかしている。こういうことはネット時代になってすぐに調べられる。そうするとその価値を信じて捨てられなくなる。実際には、自分は古書店営業もしてないし、ヤフオクをやるほどマメではない。したがってただ持っていて、これには価値があると思っているだけでなんの実際的効果も生まない。頻繁にページをめくっているのなら本来的な本としての価値が継続しているのだが、何年もただそこにあるだけでページをめくらない。結局のところさっさと捨てるべきだったのだ、と気づいて捨てることにした。
 で、やっとこの文章を書き始めた当初の目的に戻るのだが、この写楽を捨てる前に、何冊かぺらぺらとめくったなかに、将来のカメラはこうなる、といった特集記事を見つけた。でもって、その中身が2014年の今年の現実から見たら相当その通りちゃんと現実になっているのでちょっと驚いた。ということをこの文章の本題としていよいよ書き始めようと思って、いまその記事の乗っている写楽を(その一冊だけは取っておいた)探しに自室に行ったのだが、ひょいとそのあたりに置いてあるだけに違いないのに、その本が見つからない。なので本題に入れないまま、この文章は終りです。