世界地図


 横浜中華街のハズレに土産物やがたくさん入っている古い雑居ビルがあり、階段の踊り場にこの古い世界地図が貼ってある。これは勝手な想像なのだが、このビルは今こそみやげ物のビルになっているが、何十年か前には小さなオフィスがいくつも入った雑居ビルだったのではないだろうか。そういうオフィスには港の近くに構えて、輸出入を業務としている小さな商社もあったことだろう。商社が使っていた世界地図が、唯一のオフィスビル時代の記録としてそこに飾られている、なんて物語も勝手に思い浮かぶが、どうだろう。
 小学生のころ・・・このところ思い出話が多いですな・・・地球儀を持っていた。卓上用かつ子供用の。直径は20cmくらいだったろうか。そういう小さい地球儀で見るとヨーロッパはたくさんの国が寄せ集まっている。ある日、お姉さんがやってきた。遠い親戚の人だったのだろうか。私が小学生の一年くらいのときで、そのお姉さんは高校生くらいだったのか、いや、中学生くらいだったのかもしれない。小学生の私が、その地球儀上からどこかの国を選んで、その国名を一つ言う。そしてそのお姉さんがその場所を指し示す。なかなか見つけられなければ私の勝ち、その国の場所を知っていてすぐに場所を言い当てられればお姉さんの勝ち。そういうゲームをした。というかこっちは真剣にその勝負に全精力を注いでいて、お姉さんは大人の会話に加わる片手間にちょこっと相手をしていただけかもしれないな。最初、お姉さんがあまりにも簡単に場所がわかる、すなわち各国の名前も良く知っていて、その場所も把握しているので、もしかしたら出題前の私の視線をこっそり追っている「ズル」をしているのではないか?と思って、出題する国名を決めたあとにもまだ国を選んでいるようなふりをして地球儀をくるくる回してから出題をするようなこともしてみたが何の効果もない。そこで今度は、ごちゃごちゃと国が集まっているヨーロッパから小さな国を出題すればいいんじゃないか?と思いついた。それで、たぶんだけどポルトガルとかスイスとかオランダとかを出題し、しかしそんなのはむしろ簡単なわけで、お姉さんはさらに楽々と場所を指し示す。それで、負けた!と痛感したものだった。

 ツタヤで借りて、先日借りたときには借りたのに見切れなかったアリ・カウリスマキ監督の「愛しのタチアナ」を再度借りてきて見た。場面展開のときに流れる映像と音楽に小津からの影響を感じる。短い映画だから二回続けて見た。フィンランド男二人と、エストニアとロシアの女、計四人の「無口な」ロードムービーだった。最後の方でロシアの女が二カ国の友好がどうのこうのということを言うが、この映画が作られたころはエストニアもロシアもソ連邦だったのかな。男二人が夜のカフェバーで、一人は珈琲を(珈琲中毒なのだ)、一人はウォッカを(ウォッカを手放せないのだ)飲んでいる。その様子を奥の席から眺めている女性二人組みが、ここまで乗ってきたバスがパンクして修理が手間取っていることもあり、あの男たちに港まで送らせよう、と思いつくのだが、その場面で男二人がテーブルの上を注視しているところ、あれは虫でも這っているのを見つけたのかな、26インチくらいのSD画質のテレビではなにかよく判らなかったが、その様子なんか「なになになに!」とビックリギョウテンのおかしさである。男二人が工具のレンチに異様な興味を示すところなども同様で不意にぐふぐふと笑いが込み上げる。
 このDVDは再発リマスター盤で「愛しのタチアナ」のほかに「浮き雲」も収録されていたので、もう数回目になるが「浮き雲」も見た。
 タリンというのがエストニアの首都だそうで、私はそんなことも知らなかったな。