赤い服


 雨宿りをしていた横浜の桜木町改札前の通路というのは改札の側はとなりに券売機が並んでいるし、反対側には、書店などの店舗もあるから単に「通路」と言うだけではない。通路には柱が何本か立っているが、その柱もディスプレイが出来るような作りになっている。そこに飾られた中には、随分昔の桜木町駅と今の桜木町駅のミニチュアモデルが飾ってあるもある。いまは地下鉄も来ているから模型には地下鉄のホームも作られている。赤い服を着た髭のおじさんが、こうして電車を待っている、そういう模型だ。いや、よく見るとこれはホームではない?通路?でもみな立ち止まっているからやっぱりホームなのか?写真に写っていない回りの状況を再確認すればはっきりするだろうが。
 雨宿りをしている人を見ていると、大きな楽器、コントラバスかな、を抱えた三人組や、どこかで同窓会の昼食会でもあったばかりらしい初老の七人か八人くらいのグループなどがいる。雨は止んでないのに、なぜか数分か数十分のうちに彼らは消えている。計画を変更してどこかへ電車で行くことにしたのかな。あるいは傘を持っていて、小降りになるのを待っていただけなのかもしれない。柱に寄りかかってカップ酒をゆっくりゆっくりと飲んでいる、お腹の突き出たおじさんもいる。

 私はなにのことを考えていたのだろうか。もちろん雨宿りの人たちや、この写真のようなディスプレイの展示物を撮ったりもしていたが、そればかりではなかった。もちろんスマホで雨雲レーダーをチェックしたが、そればかりではなかった。もちろんその一つ一つの理由は違っていただろうがとにかく魅力的に思える女性を見ていただろうが、そればかりではなかった。でも何を考えていたのかはもう忘れている。
 写真のことを考えたかもしれない。でも写真のなにのことを考えたのかも、忘れた。