雨の夜に


十年かもう少し前のこと、愛知県に住む友人から結婚披露宴の招待状をもらったので出席することにして新幹線の切符を取り、ホテルの予約もしたのだが、直前になって結婚の話がなくなったようでキャンセルの速達便が届いた。目的が無くなったが久しぶりに名古屋の町でも歩いてみようと思ったので、そのまま名古屋へ出掛けた。秋のことで、銀杏が色付く季節だった。
私は18から22まで名古屋で下宿暮らしをしていた。地下鉄東山線で、東山公園のひとつ先の星ヶ丘駅まで行き、そこから歩いて下宿していたSさん宅のあたりを懐かしく歩き、よく行った中華料理の店がまだあるのを確認したり、その先の書店はもうなくなっているのを残念に思ったり、あの頃からあったのに入ったことがなかったスーパーに入り色鮮やかな秋の果物を眺めたりした。店内の本棚にあったブラッドベリ火星年代記を珈琲だかココアだかを飲みながら読んでいた喫茶店は場所がわからずに見付からなかった。あの読書は冬のことだった。
そのまま東山公園星ヶ丘門から入った。星ヶ丘駅から星ヶ丘門まではずいぶんときれいに整備されたものだ。
東山公園には足こぎボートで遊べる池がある。そのときにはフイルムの一眼レフカメラに35mmのレンズを付けて肩から下げていた。ヘリコプターを模した足こぎボート、黄色い船体に赤い回転翼のヘリコプター形の足こぎボートを写真に撮っていた。
ヘリコプターは回転翼航空機と言うらしい。

その名古屋への小旅行の時に撮った写真を、フイルムからフイルムスキャナーでデジタルデータ化してインクジェットでプリントした2L版の写真が部屋を整理していたら出てきた。雨の夜、湿った夜。最近は部屋干しの洗濯物がなかなか乾かないうちに厚手のバスタオルなどはすぐに臭ってくるから大変だ。オイルヒーターを持ち出してきて部屋干しの洗濯物を干した下から暖めて乾燥を急いでみるが、当然暑くてやっていられなくなった。
新しく買った1インチのセンサーサイズのカメラで足こぎボートの写真を接写してみる。それから、今も東山公園の池の足こぎボートにヘリコプターが健在かを、暇潰しのように調べてみた。すると今もヘリコプター形はあるが、色は白に赤い回転翼ようだ。船体が当時のままで色だけが塗り替えられたものかどうかはわからない。どなたかのブログには足こぎボートに乗るのならばスワン形は譲れない。列にならんで順番を待って、結果、自分の番に戻ってきたのはヘリコプターでがっかり。スワンが来るまでやり過ごして待ってから乗った、と書いてあった。そうか、ヘリコプターは不人気なのか?
冬に買って食べないままのカップラーメンがあと十日ほどで賞味期限を迎えてしまう。それに気がついたけれど今日は、さっき食べてきたカレーライスのせいでもうお腹が一杯だから食べられないな。雨粒が出窓の庇に当たりカタンカタンと音がする。何年も聞いていなかったアコーディオンの音楽を流してみる。雨が強くなると小さめに設定した音量だとメロディーが聴こえなくなる。