神戸へ 


最後に神戸に行ったのがいつだったのか。十数年振りであることは間違いない。
2002年のサッカーワールドカップ日韓共同開催のときにチュニジアとロシアの試合を見に神戸まで行った。チケットを電話で買う日に、電話をいくらかけ続けても繋がらず、それでも仕事の合間や昼休みや就業後に、携帯電話でかけ続けて、何百回目か千を越えていたのか、もう繋がることなどないとどこかで諦めていたのか、再ダイアルボタンを押して、電話が混んでいるのでしばらく経ってからかけ直せと言うメッセージの冒頭を確認し、電話を切る、と言う繰り返しが、今回もまた同じように起きるに違いないと思い込んでいたから、かかったときにはびっくりする前に今までと同じように電話を切りそうになった。人気チームの試合はもうほとんど売り切れていて、残っていたのが数試合。中からロシアとチュニジアの試合を買った。三枚買って、会社のサッカー好きの友人と一緒に神戸まで日帰りで行った。ロシアとチュニジアは日本と同じ組だったのではなかろうか。もうひとつはベルギー。もう一試合、これは別の知人がチケットが当たり誘ってくれたのだった、カメルーンアイルランドの試合を見に、新潟まで行った。
新潟で観戦したカメルーンアイルランドの試合は内容も雰囲気もよく覚えているが、神戸で観戦したロシアとチュニジアの試合のことはなにも覚えていない。ゴール裏の席だったのかな、そこから見たウイングスタジアムがぼんやりと思い浮かぶだけだ。
同じ日にドイツとアイルランドの名勝負があったように覚えているのだが、あやふやだ。帰りの新幹線でその結果を知ったと思うが、どういう手段で知ったのかはわからないな。車両のドアの上に流れるテロップだろうか。
ドイツとアイルランドの試合のドイツGKカーンとアイルランドFWロビーキーンの凄まじい駆け引きが見応えのある試合だった。駆け引きなんて書いたが、シンプルな闘争心が継続し続けただけだろう。
ずいぶんサッカーのことばかり書いてしまった。その前か後にも一回、神戸に行った。神戸に用事があった妻と一緒に行って、妻の用事が終わるまで、古本屋とジャズ喫茶とを挟みながら町をぶらついて、いい加減歩き疲れたあとに、坂を上って洋館がたくさんある高台まで行ったから、すごくきつかった。途中、立ち寄った輸入雑貨と服の店で、カーキ色の帆布ショルダー(定番のバブアーのフィッシュマン用のショルダーみたいなの)とボーダー柄のTシャツを買ったと思う。旅先でだいぶ財布の紐が緩んでいたのか。店が、何か甘いお香を炊いていたのか、買ったバッグに鼻を近付けるといつまでもいい匂いがしたものだ。
なんて言う風に昔のことを書いていたら、その神戸旅行ではミノルタオートコードにネガカラーfilmを入れて、歩いている途中にときどきシャッターを押したことも思い出した。こんなのはまず撮った写真の画像を思い出すのだった。そこから、その写真を撮ったときのことを辿っていけることがある。
その、十年ともう少し前の神戸を歩いたときのことは、曇りの日だったからか、グレーとかベージュって感じの色の記憶だ。
グレーって書いたせいか、レッド・ガーランドの「When There Are Grey Skies」ってアルバムのことを思い出した。思い出したらなんだか神戸にぴったりな気がしてきたな。単純なものです。

5月1日。黄昏時に某が予約してくれてあったイタリアンレストランに向かって歩く。いつまでも空の一角に明るさが残る。群青色の。今日は快晴で、神戸の町はグレーって色合いではないようだ。前菜のカルパッチョが美しい。
最初はぎこちなくてもだんだんと。
魚はヒラスズキ