束の間の快晴


 夜を徹してずっと暴風雨となる。夜中に目が覚めたので、窓際にコンデジを置いて、ISO6400のシャッター速度20秒で写真を撮ってみたが、ホテルの前の駐車場がぼんやりと写っただけだった。ストロボをたくわけでもなく、雨はただ画面全体を覆う「紗」のようになるだけ。風で少しだけ建物があおられるからかよく見るとぶれている。
 7時に風呂に浸かる。先客が三名。8時から朝食。9時からまた別の風呂へ行く。誰も入っていない。9時半ころに雨は止んだろうか。11時のチェックアウトぎりぎりまで天候が回復するのを待っている。
 昨晩と合わせて、この宿の持っている「そこが一番の売り」となっている風呂を四つかな、ぜんぶ入ってみた。
 昨晩、露天の「鬼面の湯」に入っていたときには雨が降り出した。晩飯の前の時刻だったろうか、六人か七人か、先に湯に浸かっている客がいて、ずいぶん会話が弾んでいるようだから、仲間なのかと思いながら話の中身を聞くとはなしに聞いていたら、一人の七十歳くらいの威勢のよさげな名古屋方面から新幹線を乗り継いで、福島からは送迎バスで来たと言う男が、その場でたまたま居合わせた人たちを前に話をしているらしかった。「ギャンプルはやるもんじゃない」「女は惚れた以上は全部希望を叶える、それくらいの男たれ」「スマホをいじって一人の時間ばかりにこもっていたら男女の恋愛もなかなか起きない、大人になれない」「酒は飲むべし、酒を飲めない男ではだめだ」。あっという間に場を仕切っている(つもりになる)、そういえば最近は珍しくなったこういう「あんたが大将」だった。回りの男たちも「はいはい」という感じで合いの手を入れている。あんたはどこから来た?あんたは飲むんか?と質問されると、「酒を飲めない男はだめ」と言われたみなさんがニコニコした感じで「私は飲めないんですよ」と、たまたまなのか三名続けてそういう答えだった。
 雨が上がったばかり、山道は少し前まで川の役目をしていたのか木の葉や折れた枝がたくさん落ちている。そんななか下っていく。今日の宿は近くの高湯。なるべく早くチェックインしてまたぞろ宿でゆっくりしようと。そうは言っても昼食は食べなければ。そこで通りかかった釜飯の店に入ってみる。さらにその近くにまとまって「今風」のカフェや小物や洋服や陶器の店を集めている場所があったのでちょっと寄ってみる。何かの写真を撮るときにシャッター速度を1/30秒にして、そのままいつもの「プログラム」モードに戻すのを忘れていたらしい。束の間の快晴が来ると気温がぐんぐん上がった。シャッター速度1/30秒であとで撮った写真を見たらこんなふうに枝が風で揺れている様子が写った。