王子駅通過


 上野東京ラインもしくは湘南新宿ラインに乗って関東平野を南下していくと、王子駅のホームは徐々に上へ上がっていく。正しくは、上野東京ラインもしくは湘南新宿ラインの線路が、ちょうど王子駅のところで下り坂になっている。王子駅には停まらないから、窓から見ていると、王子駅のホームの上の人がどんどん後ろに飛んでいきながら、徐々に上がっていく。この数秒か十数秒のあいだの車窓の景色の変化が面白い。
 二十代のころ、田園都市線沿線にあった会社の寮に住んでいたころ、渋谷から帰ってくるときに、二子玉川駅手前で地下から地上に電車が出ていくところに来ると、大気圏から宇宙に抜け出したロケットみたいだなと思ったことがあった。車中にいると、地下を走っているときに比べて、地上に出ると走行音が静かになる。それがそう思わせたのだと思う。
 王子駅を通過するときには、大気圏とか宇宙とか、そんなことは思わないけれど、車窓からいくつもの駅のプラットホームを見ているなかでは、変化があって面白い。
 王子駅のあのホームから電車に乗ると、知らない場所へ連れていかれそうな感じかもしれない。ウルトラQ小田急ロマンスカーがどこかへ行ってしまう話を思い出しました。