もう3ケ月前、7月の茅ヶ崎西浜


バスのなかでお母さんに連れられた五歳くらいと三歳くらいの男の子の兄弟が話している。三歳の、まだ舌足らずにしか話せない男の子が
「じゃりがににしゃしゃれた」
と言っている。繰返し言っている。舌足らずだが、日本語だから、すぐになにを言ってるのかわかるね、すなわち「ザリガニに刺された」と。
カードを見ているのかゲームをしていたのか、しばらく自分の手元に熱中していたが、弟が何度もそう言っているのに、ふと気が付いた兄は、
「ザリガニに噛まれた(でしょ)」
と言った。
それを受けてかな?弟は、たしかに「刺された」は違うのかな?とでも思ったのだろうか、そしてさらに、お兄ちゃんの言う「噛まれた」も違うんじゃないか?と考えたらしい。
しばらくして弟が
「じゃりがににはしゃまれた」(ザリガニに挟まれた)と、いっそう大きな声で言うのだった。

別の日。電車の、ドアとドアのあいだ、窓を背にしたロングシート(一番ありふれた近郊型電車ってことです)に座っていたら正面に二歳か三歳の男の子、細くて繊細そうな、あるいは理知的な男の子がお腹が痛いと言って、泣きはじめた。泣いても動かない。椅子に行儀よく座ったまま、例えばお腹を抑えて前屈みになってしまうとか、お母さんに寄りかかるとか、そうならない。ただ涙がすーっとこぼれた。お母さんは慣れた感じで子供のお腹の辺りを二度三度さすった。男の子は相変わらず、微動だにせずにただ涙をこぼしている。正面に座っている私を見つめている。

二つのはなしに季節を感じさせる要素はない。ザリガニは春や夏にだって捕まらないように必死になって子供の指を挟もうとする。お腹の弱い男の子は、冬や春にだってお腹が痛くなることがある。だけど、こんな些細なことを覚えていて、blogに書くことは、もしかしたら秋のことかもしれない。

最低気温が10℃最高気温が18℃。気温だけを取り上げるとこの10月は4月の桜が散って急に暖かくなった頃と同じ。桜の咲く前は、4月になっていても最低気温が5℃の日もある。(北関東基準で)
4月中旬は春分の日からはひとつき分も昼が長い。10月中旬は秋分の日からはひとつき分も昼が短い。気温が同じようで過ごしやすくても、この昼の長さの違いは気分に多大なる影響を与えるに違いない。秋は感傷的になる。ひとつのきっかけで、昔の方向へと記憶を掘り起こす力が働く。

ほんの3か月前の初夏の海岸の写真を一生懸命に作り込む(画像補正する)。

3:2より横長にすると面白いかな、と思って16:9にしてみました。