鎌倉

鎌倉にある写真家の十文字美信さんのギャラリー・ビーに「刻々」と題された写真展を見に行った。
もう一つ、神奈川近大美術館鎌倉別館に「松本竣介 創造の原点」も見てきた。

十文字さんの写真展。
山間と思われる渓谷の清い水の流れ、流れのなかの砂や岩、そこに揺らめく陽光。瞬間瞬間にうつろいで変わっていく水の流れの描く不思議な模様は高速シャッターで一瞬を止めたことではじめて露になる。
その気紛れで偶然な紋様を見ていると、やがて幼い頃に雲の形を何かに見立てたように、水の中や表層や岩の影の作る紋様のなかに、犬が見えたり女が見えたり龍が見えてきたりするのだった。
写真展の口上は
『「揺らめいている岩の形や色をきっかけにして、光は時間の底に沈んでいた自身の記憶と通底し、時には厳粛な、時には恐ろしい、あるいは時として滑稽な、さまざまなイメージが浮かび上がっては消えていく」
十文字美信』
とあった。楽しいような悲しいような鑑賞。

松本竣介の都市の絵。都市のなかの孤独と、孤独の中にあるからこそ心の奥にしまわれたともしびと、それが響きあった小さいけれど強い暖かさ。さらには諦めと希望のないまぜになったような曇り空の下の昼下がりの冷気。そんなことを思い出す。大抵はそのときではなく、後日になってふつふつわかるような。

絵を見て、写真を見て、すぐに家路につきたくない。暮れかかった時刻、由比ヶ浜商店街を歩き、途中は江の電も使いながら、七里ヶ浜の海を見に行った。
海の写真を撮っているそのときだけ、通り雨が降るのだった。