あっ、電車だ


 必ず行こうと思っていた。自家用車を運転して、群馬県立館林美術館で開催中の清宮質文展へ。
http://www.gmat.pref.gunma.jp/ex/exnow.html
快晴の冬の日、美術館裏の散歩道で耳を澄ませると、たくさんの小鳥の声が聞こえた。私の目に目撃されたのはやぶの中から現れて、人間がこんな近くにいることに驚いたように見えたホオジロ。裸木の高い枝でさえずっている黄緑の小鳥の名前を私は言い当てられない。
 静寂のなかでブッシュの写真を撮っていたら、不意に向こうの鉄橋を東武電車が走って行った。不意に現れた電車に、驚いて(さっきのホオジロのようだ)、慌てて写真を撮る。こんな電車の通過なんていうことだけれども、それで発生する波風のようなことをどう思うか。今日のところはちょっと嬉しかった。
 清宮質文の版画作品は、外の明るさとは無縁の、夕暮れの残照が描かれている。それは巨大な寂しさを、ひとかけらの残照で癒すような。だから光を閉じ込めようと、夜になっても、閉じ込めた光がいつまでも壜のなかでともしびになっていることを期待するようだった。
 北関東の一般国道を白岡のインターまで南下する。廃墟となった喫茶店、廃墟となったホテル、廃墟となったガソリンスタンド。新しくできた郊外型のロードサイドショッピングモール。廃墟になる前のガソリンスタンドでガソリンを入れて、喫茶店で昼下がりに珈琲を飲んで、行き当たりばったりのホテルに泊まれば、ロードムービーのようだと自分のやっていることに陶酔できただろうか。もうロードムービーごっこは出来にくい。