鎌倉散歩の日

快晴の土曜日。カメラを持って、鎌倉を散歩しようと思う。鎌倉×藤の花て検索してみると、既知の、藤の花が有名な寺院の情報のなかに、稲荷山別願寺と言う知らない名前が出てきた。今はもうお堂はなく石碑だけがあり、その隣に棚は作られていない藤の老木があるのだと言う。それではそこを当面の目的にして。
8時半、鎌倉駅着。いつもの、とは言え何ヶ月ぶりになるから久しく鎌倉に来てなかったかな、いつもの全席喫煙可能な江の電の駅にくっついたような喫茶店で朝食。私は煙草は吸わないから、禁煙が望ましいが、吸わないにせよどこからか煙草の香りがしたり煙が見えたりするのは、そう言う環境が既にノスタルジーだな。懐かしさを覚える。珈琲とポテトサラダトースト。旅番組か旅行誌で紹介されたのかな?女性の一人客がポツポツ入ってはプリンなんかを頼んでいる。朝8時半のプリン。おかしいのかおかしくないのか、そもそもが私にはわからないが。
江の電駅のある方の商店街は、まだ少し残ってた生活型の商店が減り、ますます観光型になってきたが、こんなのはそう言う感じがすると言うだけなのかな。途中で左折し、江の電線路を越え、JRの高架をくぐり、信号を渡って、ここも鎌倉散歩の定番、野菜即売所へ。これから何時間か歩くつもりなので、今が旬でたくさん並んでる、重そうな筍や玉葱は買えないし、萎れてしまいそうな葉物野菜も買わない。なにも買わないと写真を撮るのに気が引ける。なにか買うときはいつも同時に撮影許可をもらうわけだが。それにしてもパックされず、規格なんかなさそうで、土で育っていた色とりどりの野菜が、収穫したまますぐに板の上にところ狭しと並べられているのを見ると、なにもかも食べてみたくなるものだ。
即売所のあと、途中に日進堂でクリームチーズパンを、北村肉店でコロッケを買いながら、藤の花を目指す。コロッケは店頭で食べてしまう。甘味がいい。パンはバッグに入れる。あとで砂浜へ行ったら、トンビに気を付けながら食べようかな。実際には食べないで家に持って帰るだろう。いつもそんなだから。
藤の木は満開の少し前か。繁るに任せた老木か。私と同じようにネット検索をして来るのか、この先の寺に行く途中なのか、次々観光客が来る。マクロレンズで、ああでもないこうでもないと露出とピントを振りながら何枚も撮ってみる。軽いのとマクロレンズを持っているので、今日のカメラはミラーレスにしたが、背面液晶でもEVFでも構図やピント位置を確認するのは難しい。
また歩いて、今度は由比ヶ浜海岸。10時~11時。数日前に海が荒れたのか波打ち際にまだ濡れてゴミと砂浜をたくさん巻き込んだ海草がたくさん打ち上げられている。手に棒きれや小さなシャベルを持った、主におじいさんやおばあさんが屈んで海草の中を選り分けながら何かを探している。なにを見付けようとしているのか聞いてみる。おばあさんは掌を広げて桜貝の貝殻を見せてくれた。となりのおじいさんは珍しい蟹なんだよと、丸っこい甲羅が7~8センチくらいのそれを見せてくれる。それから黒宝貝と言うのも。私にはそれらの珍しさがよくわからないからへぇーって言えるだけ。でも回りのほかのおじいさんたちが蟹を見て、ここまで欠損がないのは珍しいとかなんとか、談義が始まった。そっと去る。
この季節に早くもビキニの水着を着て、一人ぼっちで、きれいに焼ける何やらを塗りたくり、砂浜に寝転がっている若い女性がいる。外人の家族連れの小さな子供が波打ち際を走り回る。
犬を連れた人が何人も見える。大型犬も小型犬も。大型犬は飼い主が海にボールを投げるのを今か今かと待ち受けている。スリムで格好いい種類の大型犬。犬種名は私にはわからないが、セレブな感じがする。
ヨチヨチ歩きの男の子、お父さんの服の端っこを握ったまま口を真一文字に結んで海を睨んでいる。逆光で波がきらきら輝く。
駅の方に戻る。11時半開店の餃子の店に行ってみたら、こんな路地に隠れたような店でも開店を待つ客が数人並んでいて、その列に並ぼうとは思わない。ほかの路地で藍色の暖簾が風に揺れていた蕎麦の店を見付ける。最初の客となる。昆布三昧とろろ冷やし蕎麦800円。とろろの上には刻んだ梅干。清々しい味。次々客が来る。
駅近くのたらば書房で夏葉社から出ている詩集、尾形亀之助詩集「美しい街」を見付けて買う。すると店の方が尾形亀之助のことも書いてあると言う、手書きコピー、A3一枚を折って作ったような、たらば通信(だったかな?)を袋に一緒に入れてくれた。
今度は小町通と平行な裏通りを抜けて、八幡宮に近い十文字美信さんのギャラリービーで、始まったばかりの写真展を見て、珈琲を飲む。窓から庭の新緑を見る。下の写真を撮る。
駅に戻る途中の古本屋で外に山積みになったワゴンの本の一番上に林田摂子写真集「森をさがす」を見付ける。欲しかった写真集。千円。
家を出るときに比べて詩集と写真集とクリームチーズパンの分重くなったバッグを肩から下げて帰宅する。
帰宅してから家族の某に買った写真集を見せると、とってもきれいな写真だと言う感想。
春の良き一日だったなと、その感想を聞きながら思う。