町の歴史


 北海道のとある町を、昼下がりに一人でぶらついた。幅の広い道路、停める場所に困らない自動車、人通りのない真夏の午後。湿度は低く、爽やか。
 歩いて行くと郷土資料館があった。なにかの古い建物を利用した建物で、なぜか入り口に閉館と掛けてあるが開いている。入ってみると、黄色いTシャツを着た二人の高校生が、入り口すぐの「町の歴史」のボードあたりに佇んで、スマホを触りながら言葉少なに話して、どうやら誰かを待っているらしい。やがて彼らもいなくなり、私だけが誰もいない郷土資料館をゆっくりと見て回る。北海道の町は、たぶんだけど、概ね多くが明治以降の入植者が開拓をし、農業が広がり、炭鉱が見つかり、鉄道網が整備されて行ったのだろう。村上春樹の「羊をめぐる冒険」にもそういう歴史を持つような町が描かれていた。いや、私が二十代のころに「羊をめぐる冒険」を読んで、北海道の町はそういうものだと思い込んでいるのかもしれないな。
 この町の郷土資料館に書かれた歴史年譜も、でも概ねそのような歴史が書かれていた。
 馬の剥製が飾られていた。農機具や自動車が発達普及するまえに使われていた剥製になった農耕馬は黒く丸い瞳がひときわきれいに見えた。あるいは、自家用車が普及するまえに近くの大きな市から引かれていた電気鉄道の、もう廃線になって四十年くらい経つらしいが、その車両も保存されていた。中は長いベンチシート。丸いつり革が並んでいる。車両の屋根は緩やかに湾曲している。
 写真がパネル張りになって飾られている。昭和二十年代や三十年代や四十年代らしき、すなわち日本が判りやすい目的で成長していた時代の写真には、たった一枚や二枚の写真なのに、当時の活気が写っているように思える。
 暗い資料館から外に出る。相変わらず町はしんと静かだが、いまは住みやすい施策も成功し、町民数も増えているそうだ。