暖かい夜に

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会社の休暇を使いGOTOトラベルで安価になっていることも良しとして、今日から三泊都内のホテルに一人泊り、とくに予定も明確に描かず、その日の「感じ」で気の向くまま過ごしてみようなどと、いかにも夢想すると幸せそうな四日のあいだの過ごし方を実行してみる。ホテルからの徒歩範囲に墨田川の永代橋からかちどき橋あたりの街区が含まれるから、初日の夜に早速カメラをぶらさげて歩いてみる。夜の六時とか七時ころ。途中、老舗の洋食屋に入り、大好物の牡蠣フライなどに舌鼓を打つ。牡蠣フライはタルタルソースが付き物だけど、タルタルソース自体の味は細かく刻んだキュウリなどのピクルスなんかが混じっているとなかなか美味しいものだが、どうも牡蠣そのものの味に対して勝ちすぎるといけない。なのでタルタルソースが勝ちすぎないような分量を上手くコントロールして食べたい。さらに出来うるならば例えば全五個の牡蠣フライがあるとすると、二つはウスターソースで二つはタルタルソースで、残り一つは一番最初の食べる順番にして、熱いうちに塩をちょっとかけただけで食べて見たくなる。とにかく牡蠣の味や香りを食べたいものだ。

なんていきなり牡蠣フライの話になってしまったが、夜のオフィス街、それも最新の高層ビルが立ち並ぶようなところではなく、オフィスが多いけれどせいぜい七階建てくらいの雑居ビルが多いというオフィス街にはところどころに赤ちょうちんを掲げた店があるなかを、ぽつぽつと人影が行き交う(人というより人影って感じ)。客がほとんど入っていないレストランもある。一方で狭い空間に大勢の人がはいり、繁盛している居酒屋もある。

カーヴの先に突然ライトアップされた南高橋が現れる。わっ!と思う。

今日から今週はずっと暖かくなる予報。持って来たセーターを着る必要はないようだ。下着のシャツのうえにBDシャツを着ているだけ。それでも夜の散歩をしていると汗ばんでくる。橋の上から見下ろすと、一人で釣りをしている人がいることに急に気付いて驚く。一人といえば、ジョギングで通り過ぎる人もみな一人のようだった。同じ東京でも繁華街でもなんでもないこの町の夜には、一人でひっそり過ごすことを容認してくれる包容力がある。その力はきっと闇があるということだろう。でも漆黒の闇と言う恐怖とは程遠い、そこそこな安全範囲内の暗さがあるんだな。だから都会の夜の優しさにそっと身を任せることが出来るのだろう。

色づいた葉が街路樹から落ちて、カサリと鳴る。ホテルの部屋にはまだ帰りたくない。なのでまた違う路地に折れてみる。

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