蒸し暑さぶり返す

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LPレコードのジャケットが飾ってあるような店が今もときどきあるけれど、30センチ角のLPレコードケースは音楽とは別にジャケットとして絵画作品のように楽しめた。でもでは中身を切り離してどのLPのジャケットが好きか挙げよ、と問われても、なかなか思い浮かばず、思い浮かぶのは中身の音楽に思い出があったりよく聴いたり好きだったりしたLPのものばかりで、すなわちやはりLPは音楽でそのケースであるジャケットは音楽とセットで覚えているもののようだ。70年代後半のEWレコードとかECMとかのジャケット写真は同時代的に見ているとなかなかにカッコイイ感じだったが、それらを今見ると、今となっては「懐かしい」とか「古い」写真と感じてしまう。快晴、青空、白い雲、海または一直線に荒野の中に伸びるハイウェイ、オートバイか車、あるいはヨットかサーファー、髭を伸ばした若い男、セクシーな若い女、飛ぶ鳥やグライダーや上空の白く輝く旅客機・・・。日本語ではない文字のネオンサインや本の表紙やマッチの箱・・・。望遠レンズに写し出される陽炎。

ハービー・ハンコックの「処女航海」を聴くと、そのジャケットの望遠で撮られたと思われるディンギー(?ヨット?)に乗った男のシルエットの写真とともに、ちょっと蒸し暑くて空気がよどんでいるような真夏の昼下がりの時間にいるような気分になるが、蒸し暑くて空気がよどんでいると感じるのは日本の夏で、私が19歳とか20歳のころの真夏の蒸し暑くて空気がよどんでいるような環境、畳の部屋で蚊取り線香の匂いがするような自室で、このLPをヘビロテしていたからであって、誰もが蒸し暑くてよどんでいるような夏を思い浮かべているわけではない(とくに世界に目を向けると)。でもそうは言ってもこのアルバムを聴いて、晩秋や冬や早春や春の気分になる人もいるのだろうか?このアルバムは不変的にやはり夏だと思うのだ。世界のどこかには、いやいやそんなことはない、ハービー・ハンコックの「処女航海」を聴くと音もなく降り続く白夜の雪を思い出す、なんて人たちもいるのだろうか?

やれやれ、今日の気温は32℃だかまで上がりました。ツクツクボウシの声も聞こえました。

処女航海(SHM-CD)

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