夜に集まる

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 多分、ペタンクという、鉄球を目標に向けて投げて、目標に近いところに鉄球が近づいた人が勝ち・・・なんていう簡単な説明で良いのかどうかもわからないですが、そのゲームをしている方々。もう5年か6年前の春に京都で撮った写真。昨年でも一昨年でも、もう少し前でも、4月の写真を眺めていると、今年もあと十日もすれば四月は後半になっているわけだけれど、街の人々はずいぶん薄着になり、街路樹も公園の木々もいっせいに明るい色の、明るいけれど、木の種類によって微妙に黄色みがかったり、赤味がかったりして一斉に萌えている。躑躅だって咲いている。そんなことが、あと十日で今年もそうなるのか・・・というのがにわかに信じられないくらいだ。しかも私は、なにやら蕗の薹の天ぷらとか、そら豆を塩ゆでしたものやら、若筍の刺身やら、美味しそうなものを食べたらしく写真に残っているのだった。なんかいつだって写真によって思い出される過去のある日が今日よりも素敵に思えるのは、写真を撮っている瞬間が、結局はケではなくハレの瞬間になっているからかもしれない。

 夜になって、それぞれの家で食事をしたあとに、今晩はアルコールは後回し、煌々とLEDライトの明るい光が照らす元学校の校庭に、ペタンク仲間が三々五々集まって来る。意外と遅い時間まで競技が続いて、街はすっかり眠りについて、それでもゲームが終わらない。そう、月に一度だけ、ゲームが終わらない夜があって、午前2時、彼らはだれも知らないもう一つの校庭に向かうのだった。そこにはタイムトンネルを越えてきた百年後と百年前の老人たちが霧の中から現れて・・・それから時空を超えたペタンク大会が始まる。だけどそこは時空の中立地帯であって、ただひとつの決まりは、なにも話してはいけないという沈黙の約束だった。だからときどき鉄球と鉄球がぶつかるカチカチという音がするだけだ。

 なんていう物語がふと浮かぶが、これでは物語のカケラに過ぎない。だけどもう私にはこれ以上の想像力がないようだ。なにも浮かばないのだった。

 夜に集まるってことは、それだけでちょっとわくわくするんじゃないだろうか。夜更かしもしたいし、寝坊もしたい。春。