街角のレコードジャケット

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 街を歩いていると、外に向かってガラス窓の向こうに置かれたり、直接外の壁に貼られたりしたレコードジャケットに出会うことがある。数か月前に大船の町を歩いていて、昭和歌謡のジャケットがたくさん飾られた店を見つけた。昭和歌謡のカラオケパブだったかな。

 そういうふうにたまたま出会う街の中に飾られたレコードジャケットを「知っている」ことが多い。CD以前、レコード店でレコードを探すのは、レコードをたくさん入れた箱の中の何十枚のレコードが(それらのレコードは箱のなかにぎっしり垂直に一枚の余地もないほど詰め込まれているわけではない、それが大事)10°か20°か重なったまま向こう側に角度を持って倒れるように置かれていて、それを向こう側に倒れた状態からこっち側に倒れた状態に、一枚づつ順に動かしては、そのときに見える一枚一枚のレコードジャケットの表紙をすばやくチェックしつつ捲り続け、お目当てを探していた。中にはいったレコードは固くてそれを入れたジャケットもしっかりとして曲がるようなものではないから、例えば本のページを捲るよりももっとずっと高速にジャケットを捲っていける。若いころの記憶力はすごいもので、そうして欲しいレコードに行き着くまでに何十枚かときには何百枚のレコードジャケットを捲りながら瞬時に見ていくうちに、そこに収められた音楽を聴いたことはないけどジャケットは見たことがある、ジャケットは良く知っている、ジャケットとミュージシャンおよびアルバムタイトルはセットでちゃんと覚えている(中身は聴いてなくても)ということになっていたから、その若いころの記憶と参照すると、街のあちこちに飾られたレコードジャケットの多くは(60-70%くらいは)知っているジャケットだったりする。あるいはその後のCDおよびダウンロード可能音源時代となり久しいから、そんな風にレコードを大事にして飾っているという自体で、そういうことをしている人が同世代であり、だからジャケットもかなりの確率で知っているということかもしれない。

 京都の二条×寺町の角にある店に何枚ものレコードジャケットが壁一面外に向いて(そこを歩く人たちに見てもらえるように)飾られていた。見上げたらビートルズのアビー・ロードもあった。一枚、写真を撮っておいた。手前のガラスが曇っているのか、それともなにか表面に加工があって、レンチキュラーとかかしら、すこしぼんやりと見えた。1969年のアルバム。四人がこの横断歩道を渡ったのも1969年だったのかな。この横断歩道はロンドンに行ったときに渡ったことがある。観光客が何人も渡ってはまた戻りまた渡っていた。はしゃいで、私も渡って、写真を撮ってもらった。晴れた良き日だった。こうしてみるとみな大股に歩いているな。リンゴが特にそう見える。ジョンの金髪はライオンのたてがみのように写っていると思う。

 街角のジャケットをアップで撮ったから、ここが京都なのかどこなのかはもちろんこの写真からはわからない。この写真を撮ったわたしにはここが京都だとわかる。撮った人が後日に鑑賞者になると撮ったときのことがそういう風にわかる。でもここが京都だと伝えなければ、その場所を知っている人をのぞくと、写真を見てもここが京都だとはだれもわからない。それはそうに違いないのだが、撮ったわたしにはここが京都だとわかるといことが広がっていき、この写真にも京都らしさが同時に写っているような気がしてしまう。ほかの人も京都だとわかるんじゃないかと思ったりする。だから思い込みは危なっかしいけれど、それでもこれはちゃんと京都の街のアビーロードであり、ほかの街のものではない←←←思い込みですよ。

 B面のミーン・ミスター・マスタードから1分程度の短い曲が途切れることなく次々繋がっていくところがいいですね。もう五十年くらい、それがいいと思っているわけだ。

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