スローなブギにしてくれ

  高校時代の友人K君が、1981年の美術手帖11月号「写真/道具から表現へ」をバッグから取り出して、長い間借りていたと思うんだ、と言って、返してくれた。私にもその本を貸した記憶などないので、本当に私が貸したのかは判らないが、受け取っておいた。ページを捲ると本の中ほどに「写真と機材」というコーナーがあり、数えると22人の、1981年のそのときに脚光を浴びていたのだろう写真家が、作品と文章を寄せている。そのなかに故・稲越功一のページもあった。たまたまこのブログで一週間くらい前にこの写真家と村上春樹の共著「波の絵、波の話」のことを書いたばかりだった。美術手帖稲越功一のページには女優の浅野温子の写真が見開きで載っている。添えられた文章にはこの女優が主演した映画「スローなブギにしてくれ」を稲越が見て『いまという時を風とともに流れている人だなあ』と感じたとあり、撮影のときには『被写体にあわせてBGM』を流すらしく『ウイリー・ネルソンの「スター・ダスト」』を流してその見開きに載せた写真を撮ったとあった。ウイリー・ネルソン。武道館で聴いたことがあった。がらがらで、指定されたより見やすい席で聴いたと思う。広いステージの真ん中あたりに小さな編成のバンドがすポットライトを浴びていた(と記憶している)。それほど聴いていたわけでもないが、LPレコードも一枚だけ買って持っていた。バンダナを撒いたネルソンを少し見上げるようにしたジャケットのLPだったと思う。「いまという時を風とともに流れていく」という表現もウイリー・ネルソンも、映画「スローなブギにしてくれ」も1981年らしい。そうそう私のそのLPはたぶん都内の輸入盤レコード店で安価に買ったのだが、最初から盤のひずみがひどかったのか、途中で針がジャンプしてうまく再生出来なかったんだった。たまにそういうLPにぶつかったものだ。ほかにチック・コリアのソロ演奏のLPがそんなだった。

 昨日、会社でわたしより10歳くらい若い同僚に、浅野温子の写真を見せて、誰だかわかりますか?と謎かけをしてみた。昨日は朝の通勤自家用車のなかで金曜に配信されたポッドキャスト番組オーバーザサンを聴いたが、そこでも髪型の話題のなかで浅野温子の名前が出ていた。同僚は、しばらく見て「わかりません」と言ったけれど、私が答えを教えると、映画「スローなブギにしてくれ」の頃ですかね?と言う。私が、そんな映画の名前がよく出て来るね、と言うと、同僚は、だってあの頃片岡義男の本ばかり読んでました、と言い、今もこーんなにとってある、と、両手を目一杯広げたから、私もおなじようにして、片岡義男の文庫こんなにとってある、と言い返してみた。

 あの頃、テレビでは「スローなブギにしてくれ」の映画の宣伝が大量投下され南佳孝が歌うテーマソングも予告編の場面もかっこいいなと思い、映画の封切りを待っていたものだ。監督が「八月の濡れた砂」や「赤い鳥逃げた?」の藤田敏八で、アメリカン・ニュー・シネマな雰囲気なのではないかと思い込んだ。だけど映画館で封切り日に見たその映画は私にはあまり面白くなかった。期待しすぎだったのかもしれない。もはや物語をよく覚えていないけれど、ラストシーンで、オートバイを降りてしまった主人公が子供がいるアパートの部屋かなにかから自転車で出かけていくというありきたりの暮らしと日常に落ち着きました、というところが、いちばんがっかりした。これ全部記憶だけで書いているから、そんな終わり方ではなくて、ほかの映画と混同していたらごめんなさい。

 その同僚との会話のせいで、その会話以降、しょっちゅう頭のなかに主題歌が流れる。南佳孝はすばらしい。先日、小坂忠の訃報が流れた。「しらけちまうぜ」を歌っていた。桑名正博はわずか59歳で2012年に亡くなっている。桑名の「夜の海」は沁みる。上田正樹は72歳でツアーの最中らしい。上田正樹サウス・トゥ・サウスのアルバム「この熱い魂を伝えたいんや」はよく聴いていた。みないい歌手だ。南佳孝のHPを見ると現役ばりばりで歌っているようだ。5/12には杉山清貴と南の二人のCDが出るらしい。

 上の写真は2017年の5月のスナップを見返していて拾い出したもので、藤沢のガードで撮ってあった。道行く人が誰もマスクをしていない2017年の5月のスナップがこの前後に続いている。

♪Want you

I want you 俺の肩を抱きしめてくれ

理由なんかないさ

おまえが欲しい♪

歌「スローなブギにしてくれ」の作詞は松本隆。古い曲でもラブソングの歌詞に歌われる思いは、時代が変わっても、あんまり変わらないのかもしれない。

 などとも思うが・・・でもどんな思いをどう歌詞にして流行歌が歌われ支持されるかは同じじゃないんだろうな。先日はM君から最近のいわゆるJPOPのおすすめ曲をたくさん教えてもらった。あたらよ というバンドの「悲しいラブソング」で歌われる女の子の気持ち

♪あぁほんとに何もわかってないのね

その優しさ その優しさに傷ついてんだよ♪

そうか・・・と思ったりもする、おじさんでありました。

 

♪おまえが欲しい~♪

 

 

 

私の持っている文庫のスローなブギにしてくれの表紙写真はこの版です。こういう写真がかっこよく見えた時代。

単行本も持ってます。