南極の氷から に書かれていることの検証

 1977年に私が書いた「南極の氷から」と題した文章を、若気の至りで、あまりに稚拙に思えた部分は加筆修正して昨日のブログにアップしました。この文章の中ではポール・サイモンのアルバムが流れている。1977年の春のプロ野球が始まった日のことで、その文章に登場する一人称の「ぼく」は概ね20歳の頃の私のことで、ただ創作文章なので、事実をベースに勝手に物語に仕立てているから、嘘八百ではあるが、よく言う私小説的な面もある。77年のプロ野球の開幕戦のことをスマホで調べることができる。1977年4月2日読売ジャイアンツの開幕戦の相手は中日ドラゴンズで、たしかに王貞治選手は第一号ホームランを打っていた。勝ち投手は堀内で、スコアは5対3だった。球場は後楽園。だけど1回から9回までの得点経過や、プレイボール時刻までは少し調べただけだと判らなかった。私の書いた文章が、それなりに事実に添っているとすると、丘の上のピストル使い(友だちのアダナ)が自転車をカッコよく滑らせて私の家にやって来たのが午後の三時から四時とあり、その時点で王貞治選手はホームランを放っている。国民的シーズンを予感とあるのは、1977年に王選手がハンク・アーロン選手の持つ生涯本塁打数755本を抜いた年になったからだ。756号は9月3日のことだった。スコアが5対3なので、試合時間はそれなりに掛かり、2時間以上3時間以内と予想。そこからプレイボール時間は13時かなと予想する。

 ポール・サイモンと書いても判らない人もいるだろうが、サイモンとガーファンクルという男性二人組のフォークロックグループのポール・サイモンだ。ガーファンクルはアート・ガーファンクル。サイモンは背が低くて、ガーファンクルは背が高い。サイモンはソング・ライターとしても素晴らしい才能だったし、ガーファンクルの声は美しかった。彼らのヒット曲は、例えば、サウンド・オブ・サイレンス、明日に掛ける橋、四月になれば彼女は、ボクサー、冬の散歩道、コンドルは飛んで行く、スカボロフェア・・・枚挙にいとまがないというやつだ。私が中学三年だった1974年、しぶちん、と言われた音楽の先生の授業で、しぶちんこと渋谷先生がなぜか明日に掛ける橋のレコードを掛けてくれた。音楽の授業でサイモンとガーファンクルを聴くとは思いもよらず、なんだか先生が仲間になったような嬉しい気分になったものだ。そのサイモンとガーファンクルがソロ活動を始めたのが1970年で、私が1977年に書いた「南極の氷から」という文章で流れているのは1975年の「時の流れに」というポール・サイモンのソロアルバムだろう。「時の流れに」にはA面の4曲目に「恋人と別れる50の方法」という曲が入っている。私の文章では「ポール・サイモンは恋人と別れるたくさんのやり方を伝授しているらしい」と書いているが、調べると、この曲の歌詞は恋人と別れるための50の方法が具体的に歌われているわけではないようだ。新しく好きになった人と新たに恋を始めるために、今までの恋人と別れる方法を考えている、そんな歌詞らしい。だけど当時の私は、具体的な方法が歌われているのだろうと思っていたから、こういう文章になったということだ。直すようなことでもなく、むしろ面白い。

 南極の氷はいまでは通信販売で買うことが可能らしい。南極や北極に氷を切り出し出荷する工場というか採掘場があるのかもしれない。1977年頃はどうだったのだろう。私の父が、誰から、どんなルートで南極の氷をもらったのかは今となってはわからない。わからないが日本の一地方都市のありふれた戸建て住宅の台所に置かれた東芝の冷蔵庫の冷凍室に南極の氷は届けられた。私は、南極観測隊が持ち帰った氷を、例えば隊員のAさんがご実家に持ち込み、そのAさんのご実家の方が、友人の5人に氷を分け、そのうちの一人のBさんの弟であるCさんが、父の勤めていた病院の検査技師で、父とは釣り仲間でもあり、相模湾で鯖を釣りながら南極の氷を分けてくれるという話になった、そんな風に思っている。鯖かどうかははっきりしないな、太刀魚かもしれない。こんな風に南極の氷がそういう人づてルートでしか手に入らなかったと思うと、なんだかとても貴重な感じがして、大事に使っていた。今でも冷凍庫に入っていた南極の氷のことを覚えている。それはビニール袋に入れられていてソフトボールくらいの大きさだった。

 南極に氷床が出来たのが5000万年前(らしい)。恐竜は2億年前から6600万年前に栄えた。南極の氷に閉じ込められた気泡がいつ閉じ込められたのか?それが5000万年前だったとすると、恐竜はすでに絶滅していたのだろうか。そこの辻褄はちょっと合わないけれど、南極の氷からという文章においては、恐竜の生きた時代の空気が気泡となって閉じ込められたと想像したし、その空気には、だから恐竜の時代の記憶も閉じ込められていると夢想している。キスをする二人の口のなかで太古の気泡がはじけて、その気泡に閉じ込められていた恐竜時代の夢を二人が同時に見るというのは、これはもうただのほら話に過ぎないのだ。

 1977年、高校時代の友だちのHさん(女性)、いまは孫の世話に奔走しているらしい、彼女が「私の家も南極の氷をもらったことがある」と言っていた。南極の氷をもらった人だけが参加できる「南極の氷秘密結社」というのを妄想するとまた別の物語が生まれるだろうか。

 2022年6月14日火曜日。それで私はiTunesのアルバムフォルダーに入っていたアルバム「時の流れに」を聴いています。外は午後になりどんどん暗くなってきて、もうすぐ雨が降り出すらしい。天気予報がこれだけ高精度になってしまうと、もうテルテル坊主を作って好天を祈るなんてことも馬鹿らしいことになりつつある。