梅雨の東京のありふれた朝

 昨日の月曜日、会社の最寄りの私鉄の小さな駅を降りて、駅前のセブンイレブンで会社に着いたら食べる朝食用にと、白飯に目玉焼きと刻んだ叉焼を掛けて食べる一膳飯と、昼に食べる海老かつサンドイッチ、それから少し迷ったあとに野菜ジュース一パックを買う。もう三年も使っている緑の折り畳みバッグを広げて、レジの男の子が籠から取り出してバーコードを読んだ順に、バッグに入れていく。会社への道すがら、青梅が二つ三つ転がり落ちている。先日、Rさんのブログに落ちていた青梅を踏んでしまい割れたらそこから微かな果実の香りが漂ったと書いてあったことを思い出す。それがどんな香りなのか、自分も踏んでみようか、と一瞬思うが、黒革のビジネスシューズ(ずっと決めているリーガルウォーカー)が実を踏むのにふさわしくない。雨は降っていないが、低く雲が垂れ込めている。でも黒い雲ではない。白い雲が垂れ込めていると街はコントラストが低いのに明るく見える。神社に一本、すくっと高く立っている銀杏の木の葉はもはや新緑ではなく、立派な大人の葉になった。赤いシャツを着た男が白く小さな飼い犬を連れて散歩に来たのだろう、私が通りかかったときには銀杏の木の下に犬も男も立ち止まって動かない。朝早い出勤だから、そしてセブンイレブンに寄ったので、同じ電車で降りた人は皆先に行ってしまった。これから駅に向かう人とは四人か五人とすれ違う。私は財布や社員証や、頭痛薬や不整脈の薬を入れたもともとはキャンディーが入っていた缶(この缶を薬入れに使い出してからもう30年くらい平気で経っているな)や、コンパクトデジタルカメラ、小銭入れ、携帯アルコール、寒かったときに羽織るけれどどうやら使わないだろう黒いユニクロの二年前に買ったカーディガン・・・カーディガンはいつのまにか随分持っているから袖がよれて伸びたのはそろそろ廃棄しようかな、でももったいないか・・・それと、文庫本を入れたデイバックを背負っている。文庫本は滝口悠生著「高架線」(講談社文庫)だ。今朝から読み始めた。今日は電車通勤にしたから本を読むことが出来た。自家用車通勤の日はほとんど本が読めないのだ。そこは電車通勤の最大の自覚的メリットだと思う。無自覚のメリットはそれなりに運動になっているらしいということだ。デイバックはアマゾンの年に何度かあるセールの日に、四年くらい前かな、安かったので買ってみたティンバックの黒いやつ。主たる収納部の更に外側(背中側)中央に縦にまっすぐチャックがあるので、虫の、蝉や蠅や甲虫みたいだ。そのポケットが便利なバッグ。何気なく買ったバッグ、それほど悩まず買った、そういうものの方が結果として使いやすくて愛用することが多い。これは私だけのことなのだろうか?特にバッグが。それと買ってすぐにまだ相性が判らないうちに、なんとなく合わないかもしれないと思い込み、失敗したーと思いながら使わなくなったバッグや靴が、一年か二年かときにはもっと後になり、ふと使い始めて、しばらく使うと馴染んできて、なんだこれ使いやすいじゃん!と思い直して、そこから愛用することもある。などとバッグに気が向いたのは、中身がすかすかのデイバッグを背負っていると、左肩がすぐにずり落ちてくるから、長さ調整をするのだが、そのうち今度はバッグがどんどん上に来てしまい窮屈な感じ。今日のYシャツはボタンダウンのちょっとカジュアルなグレーのコットン。目も粗いしそんなに滑りやすいとは思えないのだけれど、荷物が軽いからだろう。左に曲がってしばらく歩くと、さきほどの銀杏の大木のあるのとは別の神社。夏越しの祓の幟が立ててある。茅の輪がもう設置してあるかと覗いてみるがまだだった。会社に着く。少し汗ばんでいて暑いから、数年前に取引先にいただいた扇子を拡げて仰いでみる。そこには赤い花が何輪も咲いている椿の模様が描かれている。電子レンジは窓際にあり、一膳飯を温める2分半のあいだに外を見る。梅雨の朝の東京は、今日も白っぽくて霞んでいた。それで数日前に都内のホテルのもっと高い階で、朝に撮った写真があったことを思い出した。その写真を火曜にブログに載せようか。湾岸地区の大きな団地なのかマンションなのかが、モノレールの向こうに見える写真。さらにその向こうには港の重機、動物のようにも見せる荷の上げ下ろしの重機が微かに霞んだ先に。手前にはビルの合間に赤い電車が見える。京浜急行線の赤い電車くるりが「赤い電車」で歌っている。写真に写っている梅雨の都会の朝のこの写った範囲にいったい何人の人がいるのだろう。マンションのとある部屋で誰かがまだ夢を見て寝ているし、誰かは徹夜明けの帰宅でシャワーを浴びているし、誰かと誰かは満を持して愛し合っているし、誰かはトーストをかじりながら同時に服を着替えて寝坊をしたことを後悔しながら焦っているし、誰かは自分の信ずる宗教の作法通りに朝のお祈りをしているし、誰かは熱があって驚いている。ミサイルは飛んでこないだろう、今のところ。このまえスマホを眺めていたら日本のフォークロックバンドのおすすめ5選(といったタイトルの)記事があったので読んでみた。そこにターンテーブル・フィルムズというバンドが紹介されていた。ターンテーブルはレコード載せて回る。フィルムは写真のフィルムか。ではその単語が二つ並んでどういう意味なのかは分からないが、プレイヤーのターンテーブルも現像後のネガになったフイルムも私の部屋には両方ある。そして両方とも大事なものだな。Spotifyで聴いてみたら、悪くない、むしろいいな。アマゾンで検索すると中古のCDは格安だった。という流れで購入ボタンをクリックしてしまったのが今日あたり届くだろうか。ささやかな楽しみというわけだ。それにしてもバンドの皆さんも、こんな風にして関東に住むおじさんがふとCDを買ってみるなんてことが起きているって、予想外かもしれないな。一膳飯は美味しいが、電子レンジで加熱したご飯の熱さは、炊飯器で炊きあがったご飯の熱さと、同じ温度だったとしても口のなかで違って感じるものだと思いながら食べる。電子レンジで加熱した白飯はどこか乱暴で容赦ないのだ。それでちょっと四苦八苦して食べた。というわけで上の写真にはモノレールと赤い電車が両方写っています。私のターンテーブルはでもレコードの後半になるとトーンアームがスムーズに動けず針飛びを起こすのだった。いつか直すかそれとも売り払うか・・・。夏至です。