コーヒースタンドでの会話

 コーヒースタンドでサーファーの若い助産婦に会った。助産婦はスマホで月の満ち欠けのカレンダーをチェックして、わぁ来週は忙しくなるなぁ、と言った。来週の金曜日が新月だった。

 それを聞いていた私ともうひとりの年配の女性客が、ちょっと驚いた。月の満ち欠けと出産ラッシュの日は関係が強いそうだ。初めて知った。

 でもその話はそれ以上は続かず、年配の女性が助産婦に、どうやったらそんなにきれいに日に焼けることが出来るんだ?と聞いた。助産婦はなにもしてない、ただ晴れた日の朝にサーフィンに行ってるだけだと答えた。

 助産婦とコーヒースタンドのマスターがクラゲの話を始める。今年は梅雨明けが早く、暑く晴れた日が続いたせいなのかクラゲが多い。サーフボードに腹ばいになってパドリングをしていると腕の横をすっーとクラゲが流れていきぞっとするとか、テイクオフのためにいざ勢いよく波を捉えようと滑り始めようとしたときに目の前の海面にクラゲが見えて焦って波に乗るのを中止したとか、そんな話。一番怖いのはもちろんカツオノエボシだ。カツオノエボシは台風が来ると風と波に吹き寄せられて(不本意にも)波打ち際近くまで流れてくる。そして、サーファーを恐怖させている。私は、へぇ、と思う。まだウルトラマンが地球を救いに来てくれる前は、人間だけで怪獣や超常現象に対処しなければならなかった(すなわちウルトラQの世界なんですけどね)。あの頃、否応なく人間社会と交流せざ るを得なくなった悲しき怪獣は、人間と一悶着を起こしたあと、元の世界へ、人間とは接点のない場所へ帰っていった。いや、どうだっただろう・・・はっきりとあの話がそうだったでしょう!とは思い浮かばす、この印象が合ってるのかわからないが、そんなだったと思う。ウルトラQは番組の最後にナレーションが入り、その回で放送された摩訶不思議な物語を、こう見ると良いのではないか?という考察の模範解答のようなことが聞けた。これも確かに覚えているわけではないが、人間社会の歪や発達の裏にあるリスクにちゃんと警鐘を鳴らすようなナレーションだった。

 カツオノエボシはそんな怪獣みたいだ。あるいはどんぐりがとれなくなり里に降りてきたツキノワグマのようだ。風任せ、波任せ、ではあるけれどサーファーエリアに流れ着き、自動的に毒針を駆使してしまうという性をもって、人間社会から嫌われ疎まれる。

 コーヒーを飲み終えたのでコーヒースタンドをあとにした。