百日紅と古本

 読書中の乗代雄介著「本物の読書家」を読んでいたら登場人物のあいだで語られる小説の話のなかに、アンダスンの「ワインズバーグ・オハイオ」が出て来た。以前、読んだよなあ、と思い出し本棚をさーっと探してみたが、見つからなかった。見つからない文庫本は何回目かの「粛清」でBOOKOFFに行ったに違いないのだ。ないことが判ったら、急に読みたくなる。読むというよりちょっとぱらぱらっとページを捲って、その雰囲気を思い出すだけなのだが。アマゾンを調べたらkindleもあるし、新潮文庫ではいまも新刊で扱われているようだ。だけど、なんでだろう、新刊で買い直すという感じではないのだ。この微妙な気分はなかなか伝えにくいが、再度読むにしても古本屋で見つけた本を捲りたい。どこの古書店に行けばあるだろう?神保町まで行くというのはおおげさで、それで手に入れても望む形ではないのだ。これまた微妙な気分なのだが。できれば地元、湘南地方にある古書店で手に入れたい。それで思い浮かんだのが、鎌倉の由比ガ浜通にある公文堂書店だった。

 それとはまた別の話。一週間ほど前に、庭に古い百日紅さるすべり)を持っている方と話していて、百日紅の花が8月10日くらいが最盛期だったと聞いた。百日紅は百日と書くくらいだから花期は長い。例年であれば8月一杯は花が衰えることはないだろう。だけど、今年はもう花の盛りを過ぎてしまった感じがする。誰かの庭の百日紅を見ても、どこかの街路樹に使われている百日紅を見ても、ピークを過ぎた感じが漂うのだ。もうピークは過ぎていても、百日紅の花を見物に行きたいなと思った。それで、鎌倉×百日紅と検索をすると、鎌倉の極楽寺本覚寺、英勝寺、海蔵寺、など百日紅の木のある寺の名前がずらずらっと出て来た。何年か前にもいちど見に行ったことのある極楽寺まで百日紅を見に行こうと思った。

 それで、江ノ電極楽寺駅で降りて、極楽寺を見学し、長谷まで坂を下り、坂の下あたりで海を見物し、由比ガ浜通に戻り、途中公文堂書店に寄ってから、鎌倉駅まで、こういうコースでウォーキングをすれば、10000歩弱までは伸びそうだ。今日は最高気温が30~31℃で湿度も50%を越えなかったらしい。数日前までの蒸し暑いニッポンの夏とはちょっと違った日だった。

 極楽寺百日紅は、例年がどうなのか判らないから、比べてどうのこうのということではない。上の写真のようで、それがすべて。そして、この大きく枝がうねった古木の百日紅は、そこに生きて繁っているだけでパワーを放っている。写真は撮るというより撮らせていただいた、という感じだった。

 公文堂書店。「ワインズバーグ・オハイオ」がありそうだな・・・と思ったものの、そう都合よく探している本が訪ねた古本屋ですっと見つかるもんじゃない。そういうことは長年の経験で知っている。入り口付近に1970年頃の月刊「ヤングギター」が積んであった。はっぴいえんど特集号があった。別の号は六文銭特集だった。捲ってみると若い小室等の写真があった。六文銭特集なのだからあるに決まっている。

 入り口からまっすぐ店の奥へ行き、右側に回り込む。そこに海外作家の文庫の棚がある。アンダスンはアだから棚の左の一番上からはじまっている。そしてすぐに目的の本を見つけることができた。なんだかすんなり見つかってかえってびっくりだ。昭和60年の第35刷だった。初版が出たのは昭和34年らしい。所望の本があって嬉しい。そのあともう少し本棚を見ていたら保育社カラーブックスシリーズがある。背のタイトルをずっと読んでいったら「ヨーロッパドライブ旅行」というのがある。昭和42年だから1967年の本だった。赤いトヨタのコロナに乗って、著者の玉井勝美さんがヨーロッパの各国をドライブして、それぞれの土地で撮った写真と説明の文章が添えられている。一例『車を停めると、陽気なおやじが必ずバケツと雑巾をかかえて現れる。彼らは、その駐車場の権利を持っていて、羽虫に汚されたフロントガラスを洗ってくれる。100リラ(約50円)で結構、食べてゆけるらしい。』と写真に添えて書かれている。