12月に聴いた 4月の思い出

 夜になり、寒くなっても、なんとなく外にいて、誰かとぼそぼそと話していたり、話さずとも一緒にいたいと思ったり。一人であっても、誰かが視界のなかにいることを拠り所にして次の予定(食事や家事や勉強?)までの十数分を過ごすことで心に安らぎを求めたり。後ろのビルのなかにはジャズ音楽が流れる店があり、かすかに音楽が聴こえてくるのもいい。季節はずれの「春の如く」や「四月の思い出」といったスタンダード曲が流れて来ると、ふっと笑ってみたり。向こうのベンチの人が煙草を吸う赤い火が見える。煙草は吸わないが、煙草の火が「絵になる」場面だなと思う。さて、そろそろ行きましょうかと、あっちの誰かがベンチから立って公園から出て行き、だけどまた誰かがやってきた。掌で太ももを軽く叩いてリズムを作り、クリフォード・ブラウンマックス・ローチの「四月の思い出」のテーマに入る前の、様子をうかがっているような前奏を思い出す。ジャズを聴き始めた初期の頃にたまたま出会った、山ほどある名盤のなかのたまたまの名盤の曲をよく覚えている。生まれて最初に触れたのを母鳥だと思う幼鳥のようだな。私にとっては「ベイズン・ストリート」はそんな一枚。さて、そろそろ冷えてしまうから私が立ち去る番だ。