夜の体育館

 新しくて大きな茅ケ崎市立総合体育館が出来てから旧体育館と呼ばれるようになった茅ケ崎市体育館。昭和41年(1966年)竣工、平成20年に耐震補強工事完了。私は体育系の部活に属したことも、スポーツの教室に通ったことも少年なんとかチームに所属したことも一切ないから、小学校中学校高等学校の体育館を体育の授業や入学式や卒業式、あるいは吹奏楽部や演劇部がステージを使った文化祭や合唱コンクール、等々の学校行事以外では使ったことがない。この体育館の横を歩いていると、なにかの運動、バレーボールやバスケットボール、あるいは柔道や剣道、に励んでいる子供たちの甲高い声や走り回る音が聞こえることがある。それは平和な街の証明のような音で、私のように体育館にまつわる記憶が無くても、暖かい気分が起きる。この日は窓から漏れる青い光がきれいだったので、バッグにしまってあったカメラをごそごそ取り出して、写真を撮りました。

 例えば昼間の気温が4月下旬から5月並みの暖かさになった3月下旬の日があったとして、その日も、日が暮れたあとにはすーっと気温が下がる。すると、帰り道にふと寒さを感じて、さっきまでの暖かさはどこへ行ったのかちょっと不意をつかれてそれが淋しさのような気分になり、残った暖かさを逃がさないことができるかのように、腕を胸の前で暖かさを抱え込むように組み、背中を丸めて、いつもより少し早い歩調で家路を急ぐ。子供の頃の早春には必ずそんな日があったものだと思う。でもそれは、若かった母が、そんな恰好で暗い道から家に帰って来るのを玄関に迎えに出て見ていたことがあったような、例えば私が6歳のときの記憶があるからかもしれない。いや、本当にそんな記憶があるのかどうかもわからない。ちゃんとした記憶ではなく不確かな記憶のなかの話です。早春の宵は、だから私には妙に哀しい。宵はどの季節でも哀しい気分が漂うけれども、早春はとくにそうだ(私の場合)。

 ほんの呟きですが、そして唐突ですが、蕗の薹の天ぷらは好きですね(笑)