若者は思う

 やることなくて暇だから、ラインで、またもやCに連絡して、小磯の鼻でも行かないか?と送る。何をするのか、何時に行くのか、そんなことは連絡しない。連絡しようにも何をしたいのかわからないし、時刻?気の向くままだ。Cから「ふーん、わかった」と返事が来た。ほらね、何するのかも何時に行くのかも聞いてこない。だからさ、Cは気楽でいいんだ。来ても来なくても、ぜんぜん、構わない。夏至まであと四週間くらいだ。夏至のひと月前の今頃がいいね。ちょっとお金が足らんとか、彼女と連絡が途切れていることも、そんなのぜんぶ大丈夫って気がするんだよ。そういえばこの前の日曜に十歳の甥が来て、海を見るのが六年振り二度目って言うから、なんだそれじゃぁ初めてみたいなもんで、六年前のことなんかなにも覚えてないんだろう。それなのに甥は腕組みをして海を見ながら「懐かしいな」なんて言うから笑えたぜ。それとも母ちゃんの腹にいたときのことでも思い出したのか。だから後ろでげらげら笑ってたら、振り向いた甥が言うんだよ「これだけ無尽蔵に海水が目の前にあるんだから、この海水を使ったビジネスを考え出せるとすごいよね」だって。ふざけんな、誰がどんな教育をしてんだ、って思ったよ。どこか遠くの島で、海水から塩作ってるよな、ここの海水からだって塩は作れるんだろ、それで地元の塩を使ったってのを売りにして旨いもの食わせる店やったらどうだろう?なんて、結局は甥のひとことからちょっと考えちまった。海洋深層水ならぬ海洋表面塩だぜ・・・だぜ、ってこともないな、くだらない。甥のことはもういいや。

 Cにはお気軽にライン出来るけど、彼女には出来ない。気持ちを見透かされるのが怖い。駆け引きかもしれないからな、あいつもやせ我慢して連絡してこないんじゃないか、とういうか、そうだと思うんだよなぁ、なんとなくそう思える。じゃないと、いろいろヤバいじゃん。

 でも大丈夫だという確信はあるよ。だって、あと四週間は少なくともまだ昼の時刻が伸びているんだから。そんなときにヤバいことは起きない。経験則ってやつ。

 小磯の鼻に着いたのは午後の三時半てところ。Cはいなくて、だから一人で岩の平たいところに座ってさ、彼女に素直に「会いたい」って送るのがいいんじゃないかな、と思った。そうすれば「わたしも!」って戻って来るって、大丈夫大丈夫。だけどその四文字、なかなか書けないな。いや、書くんじゃなくて、指をスマホの表面に滑らせるんだけどね、もちろん。じきにCが来たよ、ほらこっちに向かって歩いてくる。あいつ髪伸びて、からだも細いし、砂に足取られてふらついて、なんだか女みたいだ。Cが向こうの砂浜で立ち止まって、なんか拾い出した。俺は立ち上がり、少しだけ岩場から降りて、Cがなにをしているのか見る。やつは平たい石ころを探している。その石を波が寄せて返すその間に一瞬海面が止まるときを見定めて、アンダースローで投げる。水切り、Cは下手でせいぜい三回しか跳ねないんだ。やれやれ、ちょっと一緒に遊んでやろうかな。それで思い出した。彼女が、なんで水切り遊びの小石は沈まないの?沈むか跳ねるかはなんで決まっているの?って聞いてきたことを。石が水から受ける面積に比例した反力が石自身の持っている重さより大きけりゃ、跳ね返るんじゃね?とか適当にごまかしたままだな。そうだ、そいつをちょちょいと調べて、理屈がわかったから会おうぜ、説明してやるよ、と言うのがいいんじゃないか?それならば自然だよな・・・だめか、自然じゃないか・・・

 そんなことを考えながら石を投げているCのところに行く。オッスと言えばオッスと応える。とりあえず拾った四個か五個の石を投げ終えたCはこっちを向いて笑っている。それから言う「なんか面白いことあった?」って。だからさ、ないんだよ、そんなことは。

 そんで、今日のCと俺が、このカラー写真の感じで小磯の鼻にいたわけよ。だけど、モノクロみたいになっちゃったらどうなん?なんだかひと昔前の夏至の頃って感じ。来年の今ごろに彼女とどこか二人きりでいて、一年前の、すなわちいまを思い出してるときに見ている写真かな、これ。俺この頃ちょっと迷ってたんだぜ、とか言いながら。幸せでいれればいいのになぁ。