理由もなくここは東京

 5/27-29の二泊三日で、期限切れ直前のJALマイレージを使って島根県松江市に旅行してきました。ちょうど島根県立美術館で光の記憶/森山大道展を開催中と知り、それを主目的に、この美術館の建築設計をした菊竹清訓の、ほかの建物を巡ってみようと思い立ったわけです。羽田を飛び立ち出雲空港へ向かう方向へ旋回した飛行機は東京の真上を通過しました。写真はコントラストを少し持ち上げて、輪郭強調も掛けています。本当はもっと霞んでぼんやりとしていました。画面のほぼ真ん中に高層ビルが集まっている場所が渋谷。画面下の楕円の銀色の屋根が新国立競技場。ブログに載せる写真の大きさや画素数だとわかりにくいかもしれませんが、神宮の森の横には1964年のオリンピックのときの代々木プールや、画面の左下には六本木の町も写っています。この地表を覆っている建物の屋根の粒粒を見ていると、最近の砂粒よりも小さくなった実装基板上に設計図に基づいて配置される電子部品のようです。そして緑豊かだったのだろう大地をこういう風に覆ってしまっている建物ばかりの都市は、その都市の真ん中で暮らしているときには感じない無機質な感じがむき出しに見えると思いました。それにしても緑が少ないな。

 昼休み、会社で同僚としゃべっていたら、その会話の中に「シンデレラ」「かもめ」という単語が出てきました。その会話を聞いていた別の同僚が「シンデレラ」「かもめ」という単語には曲が紐づいていて、その同僚であれば「シンデレラ」は「シンデレラハネムーン」で、「かめも」は「かもめが飛んだ日」だとおっしゃった。そこにいた何人かが他の曲をあげていて、結局のところ世代ごとに紐づいている曲が違うという当たり前のことがわかりました。私が真っ先に浮かんだのは「シンデレラエキスプレス」(ユーミン)と「かもめが飛んだ日」(渡辺真知子)。

「東京」で浮かぶのは、あまり知られていないかもしれないですが、小室等のアルバム「東京」と、そのアルバムに入っている「都会の朝」。そして吉田拓郎の「淋しき街」という歌では ♪理由(わけ)もなくここは東京♪ と繰り返し歌われます。

 ♪意地っぱりがステキだった頃 毎日が自信に満ちていて 本当の事なんて意味のないものだった 今 ここに居る気にはなれないよ 昔のようにはやりたくない 思い出はあふれる程あるけれど 理由もなくここはTokyo♪

 若い頃の無鉄砲で、理由のない自信に満ちていて、なんでも叶うと夢を抱き、この街を我が物顔で闊歩した日々。気が付いてみれば月日だけが経ち、さぁ俺は一体どうしたっていうんだ。なにかを得たわけでもなく、ただむなしい現実だけが立ちはだかる。そうして過ごした東京で、もう一回夢を見ようなんて思わない、知ってしまった今と、それでも胸の奥にしまってあるあの日々の仲間たちとの思い出。もうこの大好きであり大嫌いな東京から出て行こうか。そんな風に思っている俺だけど、その俺がいまいるここは、相変わらず東京なんだ。

 といった物語でしょうか・・・

 飛行機から見下ろした電子抵抗チップ部品をちりばめたような東京の街に、この歌のような男や女がいて、この歌のようではない男や女がいる。