箱根


 箱根芦ノ湖、午前9時前。
 井伏鱒二が「釣師・釣場」のなかで『釣りをしている最中にはそれに夢中で回りの風景なんか見ているつもりはないのだが、あとになってみると不思議に風景を思い出せるものだ』といったようなことを書いていた。いま手元にその本がないので確認はできないが記憶が正しければそうだった。人間は地上に生きる動物だから水のある川や湖や海は、やはり手強い。手強いところだからもっとも自然が露出している。そこに接している釣り人たちは、だからきっと自然とこころ洗われているのかもしれない。今私は釣りをしようと思わないもののそういうことなのかななどと写真を撮りながら考えた。
 写真を撮りたくなる時間帯と良く釣れる時間帯はだぶっていることが多そうだから、釣りはできないな。
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 (追記11/16)今朝、考えた。井伏鱒二がそう書いたのは、夢中になっているときのことはその場で覚えようとしていなくとも記憶に残ってしまう、みたいなことを示唆しているのだろうな。釣場の景色はきれいなことが多いということを言いたいわけではないに違いない。

釣師・釣場 (新潮文庫)

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