夜に向かう雲


 もうまもなく夜になるという頃に、それまで空を覆っていた雲が消えて行き、北東の遠くの空に、この幽霊鯨が北へと泳いで行くように残った雲が浮かんでいる。新幹線はそれを追いかけるように猛スピードで走り、思ったより時間がかかったが、古河か小山のころには真横に並んだ。
 すると横に並んだ新幹線に警告を発するかのように、雲の左側に鯨の目のように光が点灯したのでぎょっとしたが、それは雲間から姿を現した満月だった。すぐに月は雲から離れて行き、気が付くともう雲は後ろへと消え去っていて、ただ晴天の夜空に満月だけが浮かんでいた。


このまえの王様のブランチで紹介されていた朝倉かすみの本を読んだ。
ブランチで紹介された本を、面白そうだと読んでみたらつまらなくてがっかりしたことが今まで二回あって、面白かったことは一回もなかったから、これはどうかな?と半信半疑で読み始めた訳だが、これは楽しめました。
文体と単語の選び方に個性があってしかも上手い。川上弘美の単語選びに近い感じもするが川上弘美の気品とは違う、もっと脂っぽいというか濃い味付けというか・・・。人のこころの気分の移り気って、みんながそれぞれ相当に気紛れにそうなのに、いざその実際を文章にするとわからなくなる。それを解き明かして、ほらみんな普通にこんなでしょ、と突きつけられる。

肝、焼ける (講談社文庫)

肝、焼ける (講談社文庫)