初めてのカメラと散歩


 M型ライカ風のレトロデザインのF社高級デジカメを借りたので、首にぶらさげて散歩をしてきた。
 台風が岡山県を縦に抜けようとしていて紀伊半島などではとんでもない豪雨で大きな被害が出てしまっている。一方で台風が当初の予報より若干西にそれたせいか、予報に反して日曜日の茅ヶ崎はときどき日がさすような天気。しかし不穏な雲が空のあちらこちらを占めていて、光線もフラットでコントラストがつぶれたような光景になっている。カメラのデザインや大きさ重さのせいなのか、まさにライカコニカのヘキサーなんかを使っていたときの感触が自然とよみがえる。そうすると、そういうカメラを持ったときには自分はこういう写真を撮る(撮らされる)のだなあ、と自分でもちょっと驚くようないつもと違う感じの写真を撮っているのだった。いや、このブログの写真を眺めてくださっているみなさんから見たら、いつもと同じなのかもしれないけれど。
 南口のタイ料理チョーク・ディーでMと昼食。汗をぽたぽたと落としながら辛い料理を食べる。すごく美味しい。Mと別れてひとり海へ。夏の終わりの海水浴場は、海の家の取り壊しが始まっている。台風のもたらす大きな波がごおごおと押し寄せていて、水平線にはいろんな種類の雲が沸いている。海面は泡立つように荒れ狂う。水着を着たカップルがわずか一組だけ、もう閉まっている海の家の傍らに座っている。季節に乗り遅れた二人。ふてくされたように寝ている男、漫画を読む女。
 漁港では釣り客が小さな魚を釣っている。入れ食い入れ食い!とほくほく顔で話している。小さな丸っこい魚が釣れているのを見た。
 帰り道カフェ・ビーンズ香房。途中まで読んだまま止まっていた内田百輭の「冥途・旅順入城式」の「猫」という気味の悪い話を読みながらコーヒーを飲む。さきほどより空が暗くなってきたように思え、ブラジルの豆を焙煎してもらったのを200g買い、あわてて帰り道を早足で歩く。
 帰宅してバッグからコーヒー豆を取り出したら、いい匂いが漂った。






冥途・旅順入城式 (岩波文庫)

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