つばめ

 ゴールデンウィーク中の快晴のある日、新宿駅から渋谷駅まで、途中にふたつ、観たかった小さなギャラリーでの展示に立ち寄りながら、カメラをぶら下げて散歩をしました。途中、原宿から渋谷までは買い物客や観光客で大賑わいだった。千駄ヶ谷北参道駅近くは人通りも少なく、のんびりした休日の感じがちゃんと在りました。そのあたりで、鳥の囀る声に、真上を見たらつばめが一羽電線に止まっていました。40mmのレンズを付けていたので、これ、少しだけトリミングして50mmくらいの画角になっていますが、つばめは小さくしか写らない。よく見ると、あるいはピッチして見てもらえれば、つばめの尾羽がふたつにピッと分かれてるのが写っています。なんかこのBSと地上波のアンテナのある景色も、だんだん古めかしい景色になってくのかな?

 すこし前に一穂ミチの「光のところにいてね」と「スモール・ワールズ」を読みました。もとはどこかの文庫の202×年短編セレクトといった感じの本にこの方の作品がひとつ、収録されていて、それが面白かったから買ってみた。そしてこの二冊、両方ともとても素晴らしかった。作家の持っている、なんていう単語が適してるのかな、ピッチャーで言えば球種の豊富さのような、いくつもの持ち手があって、あるときは精緻に組まれた人間ドラマであり、あるときは会話で構成される純文学の味わいになり、懐の広さを感じて、すごい作家が出てきたものだ、とすっかり感心。

 そのあとは連休にすこしは読書時間がとれるだろうと、買ったまま積ん読状態だった厚い単行本の、滝口悠生の長い一日を読み始めています。これまた、面白い。小島信夫保坂和志磯崎憲一郎、からの滝口悠生というような。日々の当たり前をほじくり返して丹念にその背景の、いつもは気にもしない心の動きを見つめていくと、なにも起きなくても、何かが起きていて、それをどう見るかどう感じるかにより、世の中の認識は千差万別、そういうことですね。

 つばめの幼鳥が巣立ち、彼らがどこかにいったん集結して、渡っていくまであとどれくらいか、わたしはすぐにはわからない。良い季節が過ぎていきます。