バス停留所 あるいは 頑張れベルマーレ


行けなくなった人がいるので代わりに行きませんか?と誘われたので、一年ぶりに平塚市BMWスタジアムに行き、J1の湘南鹿島戦を観てきた。
日本代表に選抜されるまでに育成してきた選手を含む昨年の主力四名を、ごそっと引き抜かれた湘南はここまで未勝利。低予算チームが宿命として背負う年毎のチーム力の大きな変化、特に今年は下方への変化を、リーグスタートに於いて誰もが危惧した、その事前の危惧を証明しているようなここまでの結果だ。それでも二節三節の試合はロスタイムまでリードをしていて、残り数分、どちらかの試合だったかは忘れたが、残り5秒で追い付かれてしまった、それは不運みたいなこともあったし、と言うことは長いシーズンの中には偶然がよい方向に転がることもあるから、強豪相手にここまで出来るのならば一安心、なんて思ったりもした。しかし、もしかしたら、ぎりぎりまでリードを出来ていたことが幸運だっただけなのかもしれない。
選手や監督を徐々に覆って来ているだろう勝てない焦りから来るプレッシャーは、試合にどういう影響を落としているのか、もし過去の戦績やいまの置かれている位置を考えずに済むならば、萎縮してるかもしれない判断を好転出来るのか。
五輪予選の結果がなかなか出なかったアジア予選中に、なでしこの選手たちが(マスコミ向けにはそう言いことにしてあったかのように)言い続けて、私はすごく違和感のあった(同じような違和感のことを記事にしていたスポーツライターの方もいたようだ)「勝ちたい気持ちが強い方が勝つ」なんて言うほど簡単なことはなくて、個人の技量はものすごく重要、それをどう組み合わせて効果を生むのかを組み合わせるのもものすごく重要、そう言う選択をいろんな状況を解析しながらときには素早くときには焦らず反映させるリアルタイムのこともものすごく重要、そう言うすべてに気持ちが関係していて、それをどう言う状態に維持?と言うか「在る」ようにするかも連動した上に、確率的なこと(すなわち、ここでは偶然と言うことなのだろう)も働いて結果が決まる。気持ちの在り方をコントロールすべく、少しでも科学を導入したメンタルトレーニング何て言う、60年代の東京五輪の根性論時代?には聞かなかった単語までいまや常識となっている。そう言う無数にある準備と判断の集大成がぶつかるのが試合なのだが、試合は一つしかなくて一つの結果だけがもたらされる。「たられば」のもとに、振り返ってのあれこれの仮設や仮定が残る。無数の準備と無数の選択と無数の偶然と無数のたらればが繰り返されるのがリーグ戦で、そのたらればに参加するのがサポーターの、局所的に見れば怒りとか悲しみとか悔しさとか諦めとか言うことも含んで、総じてサポーターがスポーツ観戦をする楽しみの原理なのだろう。いや、なのだろうか?
チームへの肩入れがなく、こういう無数のなんちゃらを全く知らず、ただ目の前の試合を見ていても面白いって言う観戦の楽しみもあるわけで、観戦の姿勢も無数ってことだ。その奥深さと簡単さの両立がスポーツ観戦のすごいとこなんだな、いま、これを書いていて思ったことですが。
無数なんて安易に使ってはいけなさそうな単語を随分と使ってしまった。
だけど、無数にある要因の中で勝敗と相関が明確なのは資金力で、資金力があれば能力が確立し読めて、しかも高い監督や選手を集められる。そう言う風に確率的な分析をすると湘南が置かれている位置は厳しい。それでもチームとしての観るものを魅了する戦術(湘南スタイル)があってそれに魅了され、、湘南のサポーターでいるのなら、低予算チームであるという前提の中で少ない有利な要素をいかに活かして、一昨年や昨年のような奇跡的な結果にたどり着けるか着けないか?を見守るようなことを楽しむと言うことになる。地元に湘南があったからサポーターになっている人は知らず知らずのうちにそう言うチームの在り方を理解しているんだろう。そこに楽しみがないとやってられない。
がんばれベアーズの映画や、ほかにも小説などでも、資金力のない万年弱小チームがなにかをきっかけに、偶然もよい方向に働き、歯車がきっちりと正の回転をして、奇跡的な結果にたどり着く、そう言うのが拍手喝采を浴びる物語だ。滅多に起きないが、小規模であればときどきだけど、湘南のサポーターはそう言う気分に浸れると言う特典もあるだろう。
海の向こうに目を向けるとプレミアリーグの、岡崎のいるレスターの快進撃はまさに「あり得ない物語」だから拍手喝采なのだ。
今日の試合もミラクルは発生せず湘南は惨敗だったが、それでも試合をスタジアムで観るのはいいもんだなあ、と思った。
季節がいいし、天気がいいし、ということもあるが、入場口から階段を上がって緑が美しいサッカー場が目にはいる、あの瞬間がまず好きだ。そこには試合を控えた両軍の選手がアップをしていて、その段階では個々の力量なんかはわからず、ただプロのアスリートの無駄のない動きがすべからく美しい。観客も試合前の高揚した気分にあって、すなわち一万数千人のワクワクした期待感が場を作っている。そう言うなかに含まれるのが楽しみだった。
浦和と鹿島に負けるのはしゃぁない。広島と川崎に引き分けたのはまずまず。新潟と甲府と神戸に敗戦したのはみな一点差負けで、五回やれば二勝二敗一引き分けくらいのがっぷり四つをたまたま落としたと考えれば、0.4の三乗で、0.064。15回に1回はそう言うこともある。中学や高校の頃、クラスに40人いても、先生にしょっちゅう指された感じがあって、四十分の1だって「しょっちゅう」なのだ。
だから気持ちが負にならなければそのうちに勝つわけで。頑張れベルマーレ!とだけ言いたい。
写真は競技場の近くのバス停。