湘南熊本戦のPK判定を巡って


 神保町学士会館で、およそ40年前に大学生の私が属していたN大工学部の機械学科を卒業した人たちで、いま関東にいる人を対象とした同窓会が開かれ二年ぶりに出席する。関東地区×その学部学科と言うことだから何年に卒業しているかは関係ない。もちろんそこに出てくると言うことはある程度健康を維持していらっしゃる方に限られるから当たり前なのだが、九十歳台の方を筆頭に八十歳台でまだまだ明晰な方が大勢いらっしゃる。同じ大学の学部学科を同じ年に卒業して、同じ会社に入ったT君とも久々に会い、会のあとに神保町の居酒屋でよもやま話をする。子供の話と病気の話。おじさん後期、おじいさん前期の定番話。


 帰宅後、J2の湘南と熊本の試合をダゾンで観戦する。結果を見ずに見逃し配信で観戦する。後半ロスタイムにPKで得た一点により1-0で湘南が勝利する。しかしこのPK判定が誤判定だったのではないか?とサポータが書き込む掲示板でちょっとした騒ぎになっている。火付けはダゾンのアナウンサーと解説者の論調があるだろう。さらに両チームの監督ともにPK判定は「グレー」だという感じでコメントしたことにもよる。
 そこでその疑惑と言われるシーンをスロー再生で何度も見た。私にはこう見えた。
 菊地選手が胸トラップでボールをキープしつつ、相手選手のあいだを斜めに駆け抜けようとし、ほとんど駆け抜けることが成功してる。その時の菊地の走行姿勢は、踏み出した左足を軸に後ろに残った右足が上がりはじめている。その瞬間、その菊地選手の右足の、上がりはじめる踵に、降りてきた相手DF選手の右足の足の裏がぶつかった。結果、二人とも転倒。
 もし菊地選手のシミュレーション転倒ならば相手選手は転ばないと思われるが、相手選手も転んでおり、そこから推測するとやはり接触は起きている。(それ以前に、湘南のサポーターとして菊地選手がシミュレーションのようなことをする選手とはとても思えないし。)
 この一瞬前に、菊地選手の腕や腹の辺りに相手DFのあげた右足が「接近」しているが接触したかはスローで見ても不明。少なくとも転倒の原因ではないようだ。
 最初に書いたような、菊地の後ろに残った右足が上がっていく瞬間のその右足の踵に、相手DF選手の降りてきた右足の足の裏が当たっての転倒なら、後方にいる主審の位置からはよく見えている。うまく表現できないが、ラッシュ時の駅の階段で後ろの人に靴のかかとを踏まれることがある。菊地選手はああいう感じで踵に接触を受けたと推測。
 一方、TVのアナウンサーや解説者からは手前にいる選手の影になりよく見えない。すなわち上記の私の「こう見える」もこの手前の選手が邪魔であくまで推論の域を出ないわけだ。
 推論(一人でなく二人とも倒れたという状況も踏まえた上記の足の接触があったという推論とそれに基づく再生画面で、手前の選手で見えにくいがどうやらそう思われる)の結果、故意ではないが、結果として守備選手からの「アフターな」足の交錯で、ペナルティエリア内で攻撃選手に不利となる転倒が発生したと言えるのではないか。とすれば批判されている主審のPK判定は実に批判されるべきではなく正しくかつ秀逸。
 ダゾンのアナウンサーと解説は明らかに熊本寄りの解説。と言うかスポーツ放送と言うものは、ホームチームに有利に解説するようになっているのではないか。だからこれも当たり前で特段問題ではないものの・・・
 やはり視聴者はアナウンサーや解説者に誘導されながら「教わるようにして」見ている。いや、見ている人が多い。今回は、それに輪をかけて湘南のチョウ監督のコメントもPKを得たのはラッキーだったと言うニュアンス。これにより視聴者は誤判断があったかのように誘導されている感じがする。主審が迷わず即座に笛を吹いていた。それも自信の現れだったのだろう。
 まあ、あの場面を最初に見たときに、もしかしたらPK?って瞬間思った。そう判断されてもおかしくないというのが直感的感じだった。まあ、そういう場面は相手にもあって、げっ!PKあげちゃった?と思った瞬間もあったが、そのときは笛は吹かれなかった。トータルではラッキーだったかもしれないが、あの瞬間だけを見ると誤判定ではなく正しい判定と言うのが私の見立て。

 ところでスポーツにおける判定に「泣かされる」と言うようなことの発生頻度は、勝負をかけてそれに臨んでいる選手やスタッフやサポーターの数×ひとりひとりのエネルギーの総量と比較すると、もっとも改善すべき項目だと思う。世の中に供給される製品の品質保証がどんどんきびしくなるのにスポーツだけが判定の曖昧性まで運不運の一つとして容認されている、そういう時代はもうじき終わるのではないか。いや、終わってほしいものだ。

写真は5月上旬に車窓から撮ったものです