霞んでいる


 昨晩は実家に泊まる。今朝6時半過ぎに散歩に出る。早朝の散歩に来ている方達は、犬を連れているか、あるいはご夫婦で一緒か、私のようにカメラを「連れている」方は見かけない。まだ七時前だというのに、国道134号線の下り車線は混んでいる。でも、工場のラインに戻ったほどののろのろではない。昼間になると工場のラインに戻ったみたいになってしまうのだ。何十年も前からずっとそう。
 いや、何十年が三十とか四十くらいはそうだった。でも五十年前になるとそうではなかった。小津映画でこの道をハイキングする場面があったと思う。ときどきトラックが通るだけだった。四十年前、父が初めての自家用車を、誰かから譲り受ける形で手に入れることになったとき、試し運転で、この道を走ったのに同乗した。それまでペーパードライバーだった父が134号に入るときに、ギリギリ内側を曲がったせいか溜まっていた砂にタイヤがスリップした。ずるっと車が滑ったのだ。いまは防砂林とかのおかげかそんなことはないだろう。
 その134号を越えて金目川河口に行ってみた。なるべくユルイ感じのサーフィンをしている人たちの写真を撮りたくて、波がないときばかりにシャッターを切った。

 金目川河口あたりの砂浜には、三十年くらいまえ、よく投げ釣りに行っていた。キスとかイシモチとかいう魚が、大抵はほんのたまに、時々入れ食い状態で釣れた。砂浜までの道は、そのあたりの住宅街の中の道で、どの路地も熟知していたと思っていたが、今日、ひょいと路地を曲がってみたら、全然知らない、たぶん、当時も知らなかっただろう、一度も歩いたことのない道が現れて、驚いてしまった。そこには古い二階建て市営住宅があって、ほとんどの住戸はもう住人がおらず閉鎖されているようだった。三十年前にはそんなことはなかっただろう。下の夏草が生えてるドアの写真がそこです。そうか、知っているつもりの近所の路地でも、いつも使っている路があって、そこからひょいと曲がったところって知らないものなのだなあ。

 散歩のあとに、車で出かける。カーラジオのFM横浜が、今日は湿度が高くて、遠くまで見通せるような晴れではなく、霞んだような晴れになります、と言っている。うん、霞んでいたな、もう知っているよ。




 昨晩、古い家族アルバムを見ていたら、祖父と子供のころの私が並んで車窓から外を見ている写真があった。最近、愛用していた黒い帽子をなくしてしまった。