都内写真展巡り


 10月13日晴れ。茅ヶ崎駅に十時過ぎころだったでしょうか、なにかの理由で電車が遅れています。私は、いくつかの写真展を回ったあとに、初台のMOTOYAへ行き、9月いっぱい行われていた「もうひとつのBOOK FAIR」に出していたニセアカシア発行所の本を引き取りにうかがう予定で上り電車を待っていました。数日前に会社の友人のH氏からメールをいただき
「13日土曜日の10時くらいに臨時イベント列車のブルトレ茅ヶ崎あたりを通過します。駅に近寄らない方がいいでしょう」
と書いてありました。その忠告に反して駅に行ってしまったわけですが、ホームの端っこには鉄の方々がいらっしゃるようで、
「まもなく下り列車が通過します。撮影の方はお気を付けください」
という放送が何度か入りましたが、ホームの真ん中あたりで上り普通電車を待っているところにH氏の言うような「近寄らない方が無難」なほどの大混雑は発生していませんでした。ほっとした。
 そして遅れている上り電車に乗ってちょうどドアが閉まったときに下り列車が通過して行きました。その通過列車がイベント列車でした。プッシュプルでEF65がくっついたブルートレインの中には子供がたくさん乗っているのが見えました。走って行った列車は、たしかに数年前からは見なくなったブルトレなのでしょうが、定期運用していたころにも毎日毎日意識して見ていたわけではなく、たまにブルトレを見かけることがあった程度のことだったので、今日のイベント列車を見ても、頭のなかではこれはイベント復活した臨時運転の貴重な、次にいつ見られるかわからない列車なのだ、と理解していても、実際に走って行く列車を見たときに起きた感覚としては定期運用していたころと同様で「あっ、ブルトレね」という程度のものなのでした。もししょっちゅう乗っていた緑とオレンジに塗り分けられた、銀色の部分のない、懐かしの(とはいえ数年前までは使われていた)3ドア111系湘南電車が復活運転したらどう見えるのだろうか?むかしよく走っていた153系急行列車や80系湘南電車はどうだろうか。よくすれ違っていたEH10型機関車とかはどう見えるのだろうか?
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 最初に新宿のコニカミノルタプラザで山下恒夫写真展「島想い」を見ました。2003年ころにフォトギャラリーノボリゾウハウスというホームページを作っていたころに、山下さんのホームページを参考にしたことがあって、勝手にリンクを貼っていたのですが、そうしていたらご本人からメールをいただきまして、以降写真展に来ていただいたりしていました。久しぶりにご本人にお会いできました。元気そうでした。元気そうだな、と思う背景には、こちらはこの十年弱のあいだに目が遠くなったり、解像度が落ちたし、飛蚊症は出るし、で変化がはなはだしいからそう思うのかもしれません。でも人には等しく時間が流れているのだから「変わらなく元気そう」に見えるというのは、その人の品格の現れなのかもしれない。

 写真展を見終わって外に出ると、いつもの通り、写欲がプラスになっていて早速に新宿の駅の回りをスナップしながら一回りしました。でもしばらくのあいだ、20枚か30枚か撮るまでのあいだ、露光の設定がマイナス2/3段になっていることに気が付かなかった。新宿から渋谷までJRで、渋谷駅の回りもスナップして回ったあとに、東急東横線で中目黒へ移動しました。

 中目黒で昼どきを迎えると「珈琲るぱん」という目立たない、たぶんずいぶん昔からあるのだろう、店で昼食を食べることにしています。まあ、そうは言っても中目黒で昼どきになる機会がそうあるわけでなく、今日で三度目か四度目なだけですが。気分としては「そういうことにしている」のです。今日の定食はトンカツ目玉焼き添えでした。珈琲も付きます。近くの席に座っている四人組の仕事仲間らしき方たちが、テレビドラマの話をしています。私はテレビドラマのタイトルを聞いても何一つわかりませんでした。

 中目黒に来た目的はImpossible Project Spaceというところで操上和美展「私の家の死を彷徨う旅」を見るためでした。川沿いの道をしばらく歩きます。おしゃれなカフェやレストラン、アパレルショップなんかが並んでいます。目的のギャラリーでは午後三時から操上和美氏ご本人のトークショーがあるそうで(残念ながら予約でいっぱいだそうです)、椅子を並べるなどの会場準備が進んでいましたが、それでも写真の鑑賞はさせてもらえました。IMPOSSIBLEというのはポラロイドカメラ用のインスタントフイルムを、数年前くらいから再生産販売を始めた会社だということでした。操上和美の写真も「私の家」にある家族アルバムや新聞の切れ端や本のページから、すでに亡くなった人の肖像なんかをそのフイルムを使って接写したもののようでした。そして操上和美の写真はいま東京都写真美術館でやっている写真展の作品同様に、やっぱりかっこいい。上の、少し色あせ始めた街路樹の写真はこのギャラリーを出てすぐに見えた光景です。
 中目黒に来たついでにCOW BOOKSに寄ったらまだ開店したばかりなのでしょうか?いつもは混んでいる店内にはほかにお客さんが一人として見えませんでした。山口瞳著「わが町」を買いました。

 中目黒から地下鉄に乗って茅場町に移動しました。森岡書店で開催中の田中由紀子写真展「rest in peace」で泣いている若い女性の顔の写真を見ました。五枚か六枚だったかの展示でしたが(ほかのヌード等も入れるともっと枚数は多い)、左から二枚目の茫然自失として泣いている方の写真に惹きつけられました。なんでだかわからない。

 歩いて人形町まで行きました。水天宮と人形町あたりは、二十数年前に妻が妊婦だったときに来て以来です。ずいぶんと観光客がたくさんいる街で驚きました。ちょうど大通りの歩道沿いに様々な人形を売る出店がずらりと並んでいました。だからよけいに混んでいたのでしょう。

 人形町から都営地下鉄で浅草橋へ行きマキイマサルファインアーツで須田一政塾街歩きコースの人たちとグループ展を見ました。このグループ展に合わせてニセアカシア発行所として松本さんが作った図録を購入しました。清水さんの写真はやっぱりいいですね。

 そして再び新宿経由で初台のMOTOYAに行きました。同じく出展していた作品を回収に来ていたタニダさんとぱったりと会い、しばらく話した後に、代々木八幡駅から小田急線に乗って帰ってきました。初台のオペラシティでは篠山紀信の大規模店を開催しているのですが、そしてそれも見ようかと思っていましたが、時間切れで行きませんでした。

 途中駅までタニダさんと一緒でした。今日撮った写真をカメラの液晶画面に再生していたらタニダさんが「明るい!」と驚いていましたが、そのときは既に夕方で外は暗いけれど、写真を撮った真昼の新宿や渋谷や茅場町では明るい日が照っていて、もちろん写真はその日差しを写しています。この夕方の今から数時間過去になってしまった日差しに満ちていた町を再生しています。だからタニダさんが「明るい!」と驚いた理由が私にはよく判りませんでした。



渋谷駅バス乗り場。


水天宮だかの駅の出入り口付近だったと思います。


浅草橋の高架下にて。