見上げてごらん


 都内か横浜か、どこかへ出かけようかな、と具体的な行き先は決めないままだが、そんな了解のもと、家族のMと二人でバスに乗り茅ヶ崎駅へ出てみたが、ちょうど正午を回ったところでお腹が空いている。それで、茅ヶ崎駅を北口から南口へと改札前を通過して渡り、よく行くタイ料理のチョーク・ディーという店へ行ってみると、今日は空席があった。生春巻や、結構辛い春雨サラダや、一方でそれほど辛くなく食べやすいグリーンカレーやらを食べているうちにすっかりと落ち着いてきてしまい、都内や横浜へ出かける気も失せてしまう。食後に住宅地の路地を辿りながら、東海岸北五丁目の交差点に出て、交差点の北東の角のフエルトの小物等を置いてある雑貨屋、フエルトでできた、今風に言うと「キモカワイイ」人形のキーホルダーを手にしたりする。南東角のアメリカンな小物やらを置いてある雑貨屋ではニット帽などを手にしてみる。なにも買わないけれど。南西のよく雑誌に出ている洋服屋はちょっと趣味に合わずに入口で引き換えし、北西角から少しだけ西に歩いたところにあるカフェPiPiPiで珈琲を飲もうと決める。Mは座ったテーブルの引き出しにあった折り紙で小箱を折る。青空の色の折り紙。実際の今日の空は曇天だ。いざメニューを見ると、珈琲だけで済まずに、ダークチェリーとバニラアイスの乗ったフレンチトーストを一つ、頼んでしまう。珈琲を飲んでいるあいだに、小さな地震が起きる。フレンチトーストの皿には、チョコレートでウサギの絵が描かれている。ウサギの顔を崩さないまま食べ終える。いま、思い返すに、出来上がった折り紙の小箱のことを、私は見過ごしたまま、店を出たようだ。鉄砲通りと呼ばれる一直線のバス道路を西へと歩くと、北欧の小物を扱った雑貨屋。さらに行くと、アウトドア系のバッグや服を置いた小さな店。グリーンのカーディガンが気に入る。駅から南へ、海へと続く加山雄三通りと鉄砲通りの交差点から駅の方へ。その通りにも新しい店が何軒かあって(最近、こんなところをゆっくり歩いたことがなかったから、どれくらい「新しい」のかは不明だが)ちょこちょこと寄りながら歩く。駅に戻り、TSUTAYAで1979年だかの、イギリスの若者を描いた「さらば青春の光」を借りてみる。半年か一年か前にYさんから借りたジュリー・ドリスコール,ブライアン・オーガー&ザ・トリニティのアルバム、借りて聞いたときには「ふーん、こんな感じね」てなもので、あまり興味が沸かなかったが、先週iPODで、なんとはなしに選んで、なんとはなしに聞いてみたら、こんどはなかなか良いと思える。それで、ジュリー・ドリスコールのことをWikiで調べたりしているうちに、Modsという単語が引っかかってきて、そのころのModsとRockersの争い(?)を描いた映画がこれだということなので、興味を持って借りてきた。ほかにも借りたい映画があった。昨晩、鈴木理策さんが須田さんの作品「浮雲」のそのタイトルは成瀬巳喜男監督の同名映画から取っているようなことをおっしゃって、私は最初、小津映画の「浮草」と勘違いしていて、そのあと成瀬作品だと教えてもらったのだが、まだ見ていないのであったら借りたかった。なかったから、あるいは見つけられずに借りられない。

 帰宅したら結構つかれていて、30分ほど眠る。夜7時から藤沢のカフェ・パンセであるライブに行く予定なので、その出発時間を見越して目覚まし時計をセットして眠る。目覚ましが鳴るより早く目覚め、目覚まし時計のアラームボタンをオフにしないまま家を出る。そのことに気づいて、家にいるMメールでアラームボタンをオフにするようにメールをする。鳴ったらオフにしてくれるだろうから、メールでわざわざ知らせる必要があるわけでもないのだが。
 パンセのライブでは、なぜだか音楽を聴くことに没頭できないのだった。酒井俊は一曲目に「見上げてごらん夜の星を」を歌い、最後に「真夜中のギター」を歌った。そのあいだの曲がぼんやりと頭の上を通過していってしまった。

 夜遅く、帰り道。ときどきシャッターを押しながら歩く。今日は義父の命日だった。