遠回り


 寒い日。都内から茅ヶ崎へ帰宅する途中、蒲田-川崎間を走行中に、東海道本線藤沢駅での人身事故で停まっていると放送が入る。その放送の車掌の話し方が、アナウンサー教室でも出ているのかと思うような流れるようでかつ明解な声。そこにニュース原稿でもあるかのような判りやすい話し方。驚く。なにかJRで話し方の車内研修でも始めたのかな?それともこの車掌さんが弁論部にでもいたのだろうか。
 まあ、それはさておき、東海道線が停まっているから、川崎で降りて東海道線に乗り換えることはせずに、そのまま京浜東北線で横浜まで乗っていく。また放送が入り、事故処理が終わって再び電車が動くまでには50分くらいはかかる見込みとのこと。何十年も電車通勤をしていると、こういう数値は若干余裕を見ている場合が多いと経験上そう感じている。発表した見込み時間を越えても動かないと、たぶん、多くの乗客のイライラを助長するだろう。だけど、その時間になってもやっぱり動かないときだってあったようにも思う。
 こういうときに、復旧時刻がかなり先だと予想されると、しぶしぶと乗客が降りていく。横浜なら並走する電車路線はたくさんある。戸塚でも、横須賀線または横浜市営地下鉄を使えば行きつける。次の大船も横須賀線を使えばよい。藤沢ならば、横須賀線で鎌倉まで行って江ノ電に乗るという手もあるし、横浜から相鉄線で大和まで行き、小田急線で藤沢へ行ける。次の辻堂はちょっとやっかいだ。さて、茅ヶ崎の場合は、横浜から相鉄線の急行で約30分、海老名まで行き、そこから相模線で30分でたどり着ける。乗り換え時間も考慮して横浜から70分かかるとすると、もし東海道線が動いていれば横浜からはちょうど30分なので、40分ほど余計な時間をかけて帰宅することになる。
 しぶしぶと乗客が降りていくと席が空く。そこで復旧を待って、席に座って読書をしながら待っているというのが得策と思える気分のときが大半で、こういうときは待ってましょう、という選択を私は何度もしてきた。いままでは。
 ところが今日は、なんだかどこかでじっと待っているのが嫌な気分だった。そこで、京浜東北線横浜駅に着くと全く悩まずにさっさと降りて、ずんずんと相鉄線乗り場へと歩いて行った。すでに次に出る急行海老名行は空席はなくつり革につかまっている人も大勢いるが、その電車に乗る。海老名に着いて、またずんずんと早足でJR相模線のホームへと歩く。相鉄海老名駅からJR海老名駅のあいだをつないでいる連絡通路は長く(200mくらいかもうちょっとか?)そこを歩いていると両側に駐車場が見下ろせる。その駐車場のいくつかは閉鎖されていて、雑草がコンクリートのあいだから伸びている。近々になにか開発が始まるのかもしれないな。その光景が気になって何枚か写真に撮っていると、ずんずん歩いている人の波が追い越して行った。
 駐車場の写真はぶれていたり露出アンダーでうまく撮れなかった。上の写真は連絡通路から道路に降りる階段のあたりが街灯で照らされていたとこら辺りです。そんな風に写真を撮った分、JR駅に着いたのが遅れて、すでに出来ている列の後方になり、相模線の電車にも座れないままだった。
 ときどき、そこを撮ったというのが論より証拠だと捉えると、なんらかそこに惹きつけられたから写真を撮ったのだろうと理解すべきのように思えるものの、それが自分のことにもかかわらず、そうは言ってもそんな風に惹きつけられたという実感が全くないまま、そしてさらに、こうして家に帰ってからその写真を見ても、やっぱりなにもあらためて惹かれない写真が残っている。一体、そういう写真とは何なのか?上の写真なんかまさにそれです。それをまた、私が理解できないところで、気に入ってくださる方がいたりするのかな?(須田塾の経験上そういうことだってしょっちゅうあるのだ)
 写真はシャッターを押せば「否応なく写ってしまう」ということが端的に現れる事例のようだな。
 茅ヶ崎駅に着いたら、もう東海道線は復旧していたようだった。
 以上、どうってこともない、ただの報告。