津田直展@T.O.D.A ブラッドベリ@SHOZO cafe


朝、8:40分過ぎに宇都宮駅を発車する東北線下り普通電車黒磯行きに乗って、終点の黒磯へ。一昨日もしくは昨日までの天気予報によれば今日は晴れの予報だったが、最近の私の単独行ではいつもそうなってしまう(ように感じる?)通り曇天で、陽がさす気配もない。初めて降りた黒磯の町を一時間ほど歩く。黒磯神社。和菓子屋とカフェが多い町。あとお蕎麦屋さんも駅前に何軒か集まっていたようだ。和菓子の明治屋というところでどら焼きを買って、店内のちょっとした席で食べる。暖かい麦茶が美味しい。今日は今年一番の冷え込み。それを見越して、下着のシャツの上に、ネルの厚い生地のシャツを着て、薄いセーターとトレーナーの間くらいのも着て、秋と春用の薄いコートも着ていたが、それでも寒い。
 黒磯駅前10:40発の東野交通の路線バス「板室温泉」行きに乗車。おじいさん二名と私の、計三人の客を乗せて。市街地のあいだはバス停留所が頻繁にあるが、青木という交差点あたりから先は、バス停とバス停の間隔が長くなり、緩いもののずっと続く坂道をバスはブンブンと言いながら吹っ飛ばして進む。予定所要時間ほぼぴったりの、黒磯駅から17分で、戸田というバス停に到着する。私だけが降りる。途中、一人のおじいさんはもう降りていたから、どうやら板室温泉に湯治に行くらしいもう一人のおじいさんだけを乗せて、バスは走り去っていった。
 目的は戸田交差点近くにある「森をひらくこと T.O.D.A.」という場所の中にあるギャラリースペースで行なわれている津田直写真展「NORTH FOREST」を見ることにしている。しかし、それは一応の目的であって、ついでに行ったことのない黒磯を散歩してみようとか、那須の紅葉がきれいだろうなとか、T.O.D.Aって場所はどんなんだろう、とか総合的な興味が足し合わされている。自分の気持ちをうかがう際にすら自分なりの説明を付けたくて、目的は津田直写真展だと解すれば、納得が早いということだ。
 バス停を降りたらあたりにはぽつぽつと建物があって、あとは荒地だったり林だったり農地だ。荒地には低い草や木が一杯にあって、こんな風に緑ががんばっていたり、黄色や茶色に紅葉していたり、もう葉をすっかり落としていたり、そういうのがごちゃごちゃに生えている。人間の勝手な見立てからすれば、普通のありふれた紅葉で、人間の興味や見立てなど何も知らない植物は、それぞれの季節をちゃんと生きている。
 フルサイズのデジタル一眼に9000円くらいで買える50mmF1.8のレンズを付けている。絞りを絞ってみたり開けてみたり、露出はおおむね+補正で、だけどそれも1/3段だったり2/3段だったり、ときに1段以上だったり、そんなことで何枚も同じところをばしゃばしゃ撮る。こんな決断力のない、数撃ちゃ当たる式の写真の撮り方はフイルムのころにはしていなかった。その分、フイルムのときには失敗が多かった。その失敗があることが次の撮影の糧でもあったかもしれないが。
 バス停からすぐのところに那須塩原市立戸田小学校がある。正門に大きく、来年の3月でこの学校が廃校になってしまうことが書かれていた。都心の小学校などでは休日には正門は鍵が掛けてあって簡単に入れないし、正門をにらんでいる監視カメラも置いてある。でもこの小学校はそんな風でもないのでひょこひょこと入っていくと、木造平屋建ての校舎が一棟と、大きな運動場がある。木造校舎がいまでも現役の学校があるのにちょっと驚いた。
 そのあと調べてみたら、いやいや、まだまだそういう小学校もあるらしい。
 用事のある人は職員室に来なさい、と書いてあったから、校舎の入り口の引き戸を引いて入り、職員室に行こうとしたのだが、引き戸に鍵がかかっているらしく開かなかった。もし誰かいたら校舎の中も見せてもらおうと思ったわけだったが。それで校庭の隅にあった百葉箱や、サッカーのゴールが置かれた白い校庭の風景や、背景に杉の木のある校舎を眺めて、写真も撮ってからバス道路に引き返す。
 T.O.D.A.という場所は、ギャラリー受付の御嬢さんによれば、むかし農地開拓が上手くいかずに林業に変わり、このあたりも人の手と森が上手く関係しているような雑木林や杉林だったのが、やがて放置されてしまっていた。それを今の(この土地の?)オーナーが再び森を活用した施設を作ろうと手を入れ始めた、そういうところだそうだ。ギャラリーの建物は全体に漆喰(?)で塗り固められた教会のような鋭角な三角屋根で、ちょっと面白い。津田直の写真は北欧やドイツを中心に、アメリカや日本で撮られたものも含めた、森の写真。見ていると、その森が、大地、すなわち岩や土の上に出来ているという当たり前の事実を痛感した。
 ところでバスを降りてT.O.D.A.で写真展を見て、昼食を食べている、その二時間くらいのあいだだけ、薄日ではあったもののちょっと陽がさしていた。
http://www.toda.jp.net/

 戸田の停留所に13:37分に来る黒磯行のバスは、これまたほぼ正確にやってくる。黒磯に戻る途中にスマホで調べると、黒磯にはSHOZOという人気のある有名なカフェがあるらしいことが判ったので、そのあたりのバス停留所で降りて歩いてみる。そのカフェの二階が思いのほか広く、黒磯の市街の人通りはあまりないのに、そこだけはずいぶん混んでいる。あちらこちらからグループ客の笑い声や話声が聞こえてくる。私の案内されたカウンター席の端っこは、片隅の目立たない場所で居心地が良い。カウンターに何冊かのふるぼけてカバーもない文庫本が並んでいる。サガンとか宮沢賢治とか開高健。なかにブラッドベリの短編集「太陽の金の林檎」がある。珈琲を飲みながらそのうちの四つのお話を読んでみる。「霧笛」は好きな話で何度か読んでいるのに、記憶とはずいぶん違っていた。灯台はそんな風になっちゃうのだっけ?覚えていなかったな。もっとセンチメンタルに大それたことも起きずに淡々と終わる話のように思っていた。
 珈琲はなかなかに美味しい。
http://www.shozo.co.jp/

 午後4時半くらいに黒磯駅を出る普通電車で宇都宮。コインロッカーに入れいておいた茅ヶ崎に持ち帰る荷物を出してから、新幹線と東海道線を乗り継いで午後七時くらいには茅ヶ崎に戻ってくる。帰り道は長くて疲れました。