氷室椿園における不明瞭なフォロワー






 23日日曜日、晴れ。今日もまた、カメラを持って出かける。春の陽気に誘われて、七里ヶ浜由比ヶ浜の砂浜には日曜日を楽しむ家族ずれや若い連中が集まっているだろうか。横浜大桟橋の芝生にも多くの人がやってきて、海を行きかう船を眺めたり、みなとみらいの風景をバックに記念写真を撮っているに違いない。などと思いつつも、電車には乗らず、茅ヶ崎市内を気の向くままに歩き回る。そのうちに氷室椿園では椿の花が見ごろだろうなということを思いつき、途中からなんとなくのターゲットになっていく。こんな風に花をあてにして散歩の曖昧な行き先を、一応の、という注釈付ではあっても目的に据えるというのが、そもそも年寄りくさい。あるいは写真趣味の人って感じで、にがわらい。
 そのくせ、マクロレンズなど持たず、APS-CサイズセンサーのDSLRに、最初に買うときに付いてくる18-55mm(35フイルム換算で29-88mm)のお手軽レンズを付けたものしか、今日のところは持っていない。散歩に出発するときに目的地を決めていないからであるが、では決めていたらどうしてたのかと考えると、たとえばマクロレンズなど持ってないし、三脚を持って出る気合いというか勇気もないし、そもそも三脚やマクロで「こういう、あるべき、由緒正しい、作法にのっとった」花の写真(サロン写真風)を撮りたいという希望や思いがないのである。
 茅ヶ崎市の氷室椿園は、市のHPによれば
『 氷室椿庭園は三井不動産の元副社長である氷室 捷爾さん・花子さん夫妻の庭園をご遺族が茅ヶ崎市に寄贈したもので、平成3年10月に開園しました。
 広さ約2,800平方メートルという広い庭園には、椿や松など1,300本におよぶ庭木類が植えられています。なかでも椿は約250種類もあり、多くの方は初めて見る椿に出会えるはずです。
 特におすすめは「氷室雪月花」。白や淡桃色の地に紅色の絞りが入った美しい品種です。また、実際に来園された方には「黒椿」や「紅唐子」も人気です。』と、なんだかおかしな文章で紹介されている。(「実際に来園された方には」というところが変でいい。)
 それで、そういうマクロ+三脚などで撮られる写真に「背を向けた」気分で、ということは「実際に来園された」ときには、実はそれ以上に「なにか新しい感じの」「誰も見たことがなくかつ魅力のある」写真を撮ってやるぞ!とか意気盛んになっているってことではないのか!なんて、そうでもないか。。。
 しかし、椿のあいだの散策路に立ち止まって、いろいろと試そうとしている。あるいは、試そうとしてしまう。ではいったい何を試そうとして、どういう写真が写れば、自己満足できるのか。それを考えると、なんのことはない、結局のところ「(もしかしたらすでに)由緒正しい、(もしかしたらすでに)作法がある」ところの「見たことのある」あるいは「テイストを漠然と追いかけている」お手本写真(あるいは「お手本」のテイスト)があるのだろう。しかも混線したむかしの電話回線のように、そういう写真があれこれぐるぐると混じりあっては頭のなかに明滅してしまい、自分らしさ、どころか、もっともたちの悪いであろう「不明瞭なフォロワー」になっているに違いない。
 ホンマタカシの「IN OUR NATURE」が、数年前に目黒のギャラリーで見たテリー・ワイフェンバック「Between Maple and Chestnut 」が、あるいは、京都の古本市で買った高橋恭司の写真集「Life goes on」にあった都会のそのへんの植物の写真が、あるいはウィリアム・エグルストンのどれということはないけど「エグルストンみたいな」というわけのわからない「雰囲気」のようなものが、明滅し混沌とし。
 しかもそのほとんどを私はプリントではなく写真集で見ているから、オリジナルの持つ8×10などの大型カメラで撮られた故の「印象」を知らずにいるのだから余計に厄介だ。