靴を買った


 私は左足の方が、右足より幅も甲の高さもわずかに大きいらしい。その大きさの違いなんて関係なく右足も左足もとくに不満なく履ける汎用性が高いというのか足への包容力があるというかそういう靴もあるが、そうでない靴もある。汎用性が高い靴を買いたいとは思うが、靴屋で試着というのか試し履きして数十歩くらい歩いただけではなかなかその私の足のサイズ違いを吸収できるかどうかの包容力を見極めるのが難しい。昨秋は、それまでの数年に亘って使っていた普段用の靴を(通勤の革靴も当然同じ問題を抱えているわけだが今回は普段使いの靴を)二足いっぺんに捨てた。穴が開いたりで。それでリーガルのバックスキン風のスリップオンと、ティンバーランドの黒に臙脂の色の紐の靴を買ったのだが、これが両方とも左足の甲が痛くなる。まあ、新しい靴が足になじむまでには「足」Vs「靴」といったようなバトルがあって、そのうちに靴が使い続けることで柔らかくなるのか「足になじむ」わけだが、まだこの二足の新参の靴とはバトルが続いている。
 今日、例によってふらふらとカメラを持って鎌倉へ行き、八幡宮にお参りをして、カフェ「ライフ」に行ってみたら店が変わってしまっていて、その代わり段かづら通りに昨年の3月に出来たという今風なシンプルで飾り気のない店舗と、安価なテイクアウトも可能なコーヒーを出すコーヒーハウスで休み、読みかけの短編集の一編目の半分をそこで読んでから、海へ向かって歩き始めた。途中、パタゴニアの鎌倉店がセール中だ。ふらふらついでにふらふらと足を踏み入れ、するとそこに包容力が高そうな靴を発見した。今度こそは失敗しないぞ、と思いながら、試し履きをしてからその靴を買った。
 買った靴を持ったまま由比ヶ浜まで歩いて、波打ち際で貝殻を拾っている人たちを写真に撮る。それから私も屈んで、小さな小さな貝殻が無数に打ち上げられている滑川の河口あたりで掌に四つか五つの貝殻を載せてみた。どうしてここにはこんなに無数の貝殻が集まっているのか。それも五ミリにも満たないような大きさの。二枚貝もあれば巻貝もある。巻貝も細長いのもあれば平たいのもある。少女たちがずっと探しているのは桜貝なのだろうか。私が短時間だけ屈んでいたときには桜貝は見つからなかった。
 快晴の休日だ。すれ違う大勢の人たちがなんだかみんな幸せそうに笑っている、そんな気がした。
 新しい靴をいつおろそうか?でもバトル中の靴もそのうちに慣れるだろうから、それらの靴も長く付き合えるといいな。