東京の冬を歩く


 今日から三連休。昨秋から行こうと思っていた映画「白夜のタンゴ」を渋谷のユーロスペースにやっと観に行った。単館系の映画館にドキュメント映画を観に行くことがよくある。この映画もアルゼンチンのタンゴの歌手とギタリストとアコーディオン奏者が、タンゴの発祥の地はフィンランドだという主張を聞いたこともありフィンランドに実際に出かけたというその旅を追いかけた映画だ。国民性も風景もおおいに違うアルゼンチンとフィンランドであっても、そこに人と人が音楽を通じてコミュニケーションをするとやがてリスペクトと共感が生まれてくる。と、こう書くと、なんだ予定調和的なそういう当たり前のことね、で終わってしまうが、そこはこの映画に映し出される風景やミュージシャンの具体的な「ほかでもない」ひとつひとつの積み重なりがもたらすところの「妙」が素晴らしい。
 映画のあと、カメラを持って渋谷から神泉、神泉から代々木、代々木公園から南新宿あたりを通り新宿へ、ふらふらと気の向くままに路地を辿って歩き続けた。夕方、新宿のとんかつの「王ろじ」でカツカレー丼を食べる。三十年前ころに田園都市線のとある駅から歩いて五分くらいの高台にあった会社の寮に住んでいたころ、一人で新宿に行けば「王ろじ」でカツを、渋谷に行けば「ムルギー」でカレーをよく食べた。新宿のいまはもうなくなった中古カメラ店コニカプレス�を75000円くらいで買って、オーバーホールとモルトプレンの張り替えまでやって、それでもあのカメラはいくらしっかり構えても、私には手持ちでは(1/250秒のシャッターでも)手振れを抑えることが出来なかった。それで数年後には60000円くらいで委託販売で売り払った。カメラのデザインが結構好きだったのだが・・・
 そのカメラを買った日にも、手に入れたカメラを持って「王ろじ」で昼飯を食べたような気がする。
 冬の快晴の日、都会にはビルにより直線的に作られた影が陽だまりを横切る。そういう風景も悪くないです。