横浜中華街


天気のよい冬の土曜日。家族の女性陣と一緒に、久しぶりに自家用車で、横浜中華街にいってみた。食べログて高評価点を獲得している点心の店に行ってみたが、大勢の客が待っているので、すぐにやめにして他の店に入った。あの待っている人たちの様子は、なんだかどんよりとしていた。中学や高校の教室で、部屋を掃除するか、何かのイベントのために、机と椅子をわけて、教室の後ろに寄せている、そんな感じて、ぐちゃっと椅子が縦横にきれいな列を成すのとは程遠く、混沌と言うのか雑然と置かれている。そこに二十人どころか、三十人かもしかしたらそれ以上の人が疲れた顔でたいした会話もせずに名前を呼ばれるのを待っている。どんよりと暗い感じは、その椅子の小ささや、あまりに余裕のない詰め込まれ方、と言うより、詰め込まれられ方(あれ?何が違うのか?)や、その場所の暗さ、曇天の昼間の電灯が付いていない北向の磨りガラスがはまった玄関といった感じの、そう言うこともある。病院の待合室はいめはもっと明るいし。運転免許の書き換えのときに見せられるビデオの部屋の感じはもっとワサワサしているし、同じ会社とはいえまったく面識のない十数人が集められる研修の初日の開始前が少しは近いかも。
呼ばれて飲茶コースを食べ始めればこの待ち時間の忍耐も何のその、絶品に歓喜出来るのか。出来るのかもしれないが、やっぱり待つのは嫌いだからすぐにあきらめた。
横浜中華街には、少なくとも五人か、出来ればもう少し多い人数でしかもコースは予約せず、その場でメニューを見ながら、ダブらないように一人平均一品半くらいを頼めば、五人で七か八品、六人なら九品くらいが食べられる。それで最後に麺でもご飯ものでも、一つか二つを分けて、気が向けば杏仁豆腐なんかを付ければよい。その間、もちろん、飲む人は老酒だとか青島ビールや果実酒を飲んだりする。街は大勢の人が歩いていて、活気が溢れていて、気分も華やぐ。と言うのが良いではないか。だから、食べログの高得点料理にありつくために忍耐と言うか我慢と言うか、そうしてしまえばそもそもの華やぐ気分、楽しい気分を、そっちの方が「美味しかったね!」って思うときの重要要素かもしれないよ、ちょっとした味の機微よりも、その気分を放棄している分、損してる可能性もあるし。いや、でも待てよ、そんなのは待つのが嫌いな私の、行動正当化のための理屈で、どんよりとした中で数十分を待ってでも評判の料理を食べた、実は美味しいかどうかよくわかんないけど、皆が美味しいって言ってるしまず間違いないし、少なくとも不味くはなかったから、うん、ダントツ飛び抜けて美味しいかはわからないけど待ったかいがあった、満足満足と言う行動パターンの方が、休日を充実させるのに、より真っ当、と言う考え方もある。一方で、まだ誰も探り当てていない、次に人気店となる味を求めて失敗何するものぞ、誰もまだ知らない店を開発するぞ!って言う、その行為全体を失敗も含めて楽しんでいる初期開拓者みたいな人もいる。
こう書いてくると、中華街でどの店で何を食べてどう満足を得たか、だけでも、これって音楽への接し方、映画の選び方、本の選択のしかた。果ては就職活動もそれに向けた進学の考え方も、全部同じじゃないかな、なーる、横浜中華街には人生の縮図が詰まっているぞ、ははは、とか思ってみたり。
さて、食べログ高得点店を早々に諦めて、過去の飲み会のときの印象や、その店の菓子店の品が美味しいことや、自分なりの過去の経験から、S園と言う店に行ってみるとそこそこに空いている。過去の飲み会の印象の通り、ちょっと高い感じがする。横浜中華街の店は、どこの町にもある一応は、中華街で修行したとか言う経歴の有るような中国の方がやっているような中華料理店よりも、一品につき、そうだなあ、二百円から三百円高いのではないか。いや、平日のランチ営業と休日の営業で、だいぶお値段が違うようで、本当は平日のランチに五人で来てAセットからEセットまでを全部頼んで分け合うのがいいかもしれない。
二百円か三百円高いのは観光地代でその分他の街にはない全体的異空間演出のための入場料を払っていると思えばよい。
三人だし、誰もアルコールは飲まないし、家族の某は好き嫌いもはなはだしい。だから、七品も八品も頼んでわいわいやる感じにはならない。私は牡蠣の酸辛湯麺を頼む。家族の女性陣は、五目焼そばとかに炒飯である。せっかくだからもう一品、家族の某の大好物の海老のチリソース炒めも頼む。この店の中華菓子同様のさっぱりと薄味の料理で、家の家族の嗜好には先ず先ず合致している。ま、注文のときに水を持ってくるのを忘れてる、等々サービスは普通に中華街標準だった。
あらためて調べると、何十人がぼんやりと待たされていた店の食べログ点数は3.64で、私たち家族が食べた店は3.31である。0.33の違いがどうなのかはわからない。ま、要するに横浜中華街と言う観光地代で全体の持つ特別な異空間の入場料だと思って楽しまないと少人数での中華街は、楽しめない、とも言える。コスパだかに優れた中華料理を食べたいのなら中華街なんかに来ずにどこの町にもある、評判の店に行った方が失敗はないのだろう。
中華街のメインの通りを歩いていると、昼間から大勢の酔客が楽しそうに歩いている。やっぱり少なくとも五人以上のグループで、宴会を楽しむのが手っ取り早く満足に行き着くようだ。
それから元町経由で山下公園に行き、ちょっと写真を撮って帰った。