真夏の最初の金曜


(黄色く写っているのは遊泳エリアを仕切るブイだと思います)

 6月19日のブログに鎌倉の女性料理人が切り盛りする人気居酒屋に行ったことを書いたが、そのときの相棒(?)会社の同僚のAさんと、29日金曜の夕方、今度も鎌倉駅で待ち合わせ、6月のときとは別の居酒屋へ行った。何度も書いている通り、アルコールに弱い私は、最初に生ビールを頼んでしまうと、なんとかそれを飲み切って、するともうそれ以上アルコールを飲むことができない。それではもったいないので、Aさんが生ビールを飲んでいる横でビールはパスし、茅ヶ崎の熊澤酒造の「天青・防空壕貯蔵」を頼む。これだって小さな猪口にせいぜい二杯か三杯。すでにビールを飲み終えたAさんが飲み継ぐ。その後、撮った写真からおさらいすると「奈良県・どぶ」「福岡県・二の矢/夏生/うすにごり」「宮城県・ひと夏の恋」「山口県・東洋美人ippo」「鳥取県山滴る」それぞれ私は猪口に一杯か二杯である。それでも全部足すと、私にとっては飲みすぎである。ビールを飲みすぎると動悸が増して真っ赤になったあとに急激に血の気が引き真っ青になって気持ち悪くなるのだが、いや、アルコールの種類によらずそうなのだが、今日のところは時間をかけて料理を食べながらだったか、そういう激烈急激なゲリラ豪雨的症状にはならなかった。ただ、ゲリラ豪雨的な症状のときはそこを超すのもすぐで、二十分もすれば立ち直るのだが、今日はずっと酔っている感じなのだった。料理もみな美味しいが、なんといっても小鯵のから揚げが素晴らしかった。お酒も、さわやかでまろやかで、甘やかで香りが立っていて、とかなんとか一般論として正しいのかどうかもわからない感想を頭の中とはいえ言葉にしているのは最初の二種類か三種類まで。あとはよくわからないのだった。
 一山超えた向こうの町にある自宅までタクシーで帰るというAさんと鎌倉駅前で別れる。電車が混んでいるだろうことと、自分の酔っている状態を勘案すると、どうもすぐに帰る気になれない。まっすぐ歩けているのかどうか、若干怪しい気がする。千鳥足ってほどではないにせよ。
 それで由比ガ浜に向かって歩き始めた。海から戻ってくるカップルやグループとたくさんすれ違う。海に向かう人はそれに比べると少ないが、遅い梅雨明けあとの最初の週末で、もちろんもう学生は夏休みに入っているからか、もう夜の9時近いのに華やいだ気分が漂っているようだ。夜風が気持ち良い。今日の昼間は炎天下の猛暑だったが、この夜は涼やかだった。
 砂浜へ降りる。会社帰りに居酒屋へ寄り、そのままここまでやって来た私は、ビジネスシューズにクールビズのシャツに、真っ黒いショルダーバッグをぶら下げていて、場違いも甚だしい恰好だったが、それだって夜に紛れて目立たない。駅から海までのあいだに、桑名正博の「夜の海」のメロディを、掠れた小さな音にした口笛で吹いてきた。「夜の海」の入っているアルバムを学生のときに持っていた。いまもあるだろうか。この曲は夏の終わりの歌だった。梅雨があけて真夏がやってきた瞬間から、最初の最初から、すでに夏の終わりの寂しさはどこかに潜んでいる。それを知らない若い人たちが作る「心の状態としての夏」を、もうそこに属しては見られない。だから千鳥足だろうとなんだろうと、私は傍観者なのだった。
♪通り過ぎてく二人と、お互いにわかっていても、そんなはずじゃないのに涙、こぼれそうで苦笑い、そしてドラマはおわり♪
 滑川河口のあたりに立つと、白い波頭を立ててたくさんの波が次々とやってくる。波に過ぎないのに、どこかから一斉に帰還してくる鳥かなにかのように見える。砂の上にショルダーバッグを置き、そのうえにコンパクトデジカメを乗せ、20秒の長秒のシャッターを切る。下の写真のように白い波がしらが次々とやってくる様子は長いシャッター速度のなかに溶け込んで、当然、写らない。ずいぶん星がたくさん出ている。目の前の星空を見上げても私の、眼鏡をかけた視力は1.0を超えていても、それとは別のISO感度が落ちていると思われる目には、星があまり見えない。だから目の前にその夜空があるのに、撮り終わった写真をいまここに再生して見せるデジカメの液晶画面を見てはじめて、そこにさそり座が写っていることに気が付くテイタラクなのだった。
 次々と入ってくる波こそ写したい。写真を撮っているうちにすっかり酔いもさめた。そこでISO感度をノイズ覚悟で6400まで持ち上げて、シャッター速度1秒。手振れ補正機能のおかげで、ぶれは甚だしくはならない。ぶれているのも傍観者の寂しさや心の迷いのようで構わないじゃないか。とばかり次々にシャッターを押した。
 三十分くらいか、もっと短かったかもしれないが、ひとしきり写真を撮ってから、来た道を駅へと引き返した。ショルダーバッグを置いた場所は波打ち際で湿っていたらしく、バッグが砂まみれになって海水の生臭いにおいがしみついてしまった。明日、洗って干そうと思う。今日は帰ったらシャワーを浴びて、さっさと寝てしまおう、と決めている。
 

WHO ARE YOU(紙)

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