whisper not の夜と skylark の夜


5日の夜、iPODを接続して音を出すスピーカー装置(って言い方でいいのか?)でアート・ファーマーのアルバムを流しながら、ベッドに入って読みかけのシェル・コレクターって短編集を開いたが、結局は一ページたりとも進まず眠りに入る。が、この夜に限っては、そのまま深い眠りに入れずに、なぜかさっき行ったばかりなのにトイレに行きたくなり、いまいちどベッドを出る。そのときに消さずに流しっぱなしになっていた曲の曲名が、テーマのメロディはよく知っているのに、わからない。そこでiPODの画面をタッチして曲名を表示させた。そんなことをしているうちに眠気が飛んでしまった。曲名はwhisper notだった。目がすっかり覚めて、では本を読むかと言えば読まずに、iPODを曲名表示にする(そうすると入っている約6000曲がABC順に続いてあいうえお順に、最後に数字順に並ぶ)。何度も何度もホイールをくるくると撫ぜないとなかなか進まないが、同じwhisper notは三曲入っていた。アート・ファーマー&ジム・ホールのと、リー・モーガンのと、SATOSHI INOUEのと。ネットでこの曲について検索して出てくる、エラ・フィッツジェラルドの歌唱やキース・ジャレットのスタンダーズ・トリオの演奏はどっちも持っていないので入ってない。
 そのうち、スタンダードで一番曲数が入っているのはなんだろう?と思い立ったが、全部をチェックはできない。それでもwから遡っていったら、stella by starlightが六曲だった。そのすぐ近くにskylarkが三曲。そんなことをしているといつの間にか時間がどんどん過ぎていく。
6日、夕方。同僚のお父様のお通夜に行く。帰りの電車の中から渋谷の線路沿いの公園で遊ぶスケートボードの若者の写真を通りすがりに撮った。
iPODに入っている SKYLARK3曲は、マイケル・ブレッカーのと、ワン・フォー・オールと言うグループのと、チャーリー・ヘイデン&ジム・ホールのだ。チャーリーとジムはともに数年のあいだに相次いで他界した。二人とも大好きだった。
マイケル・ブレッカーも若くして亡くなったのだった。ブレッカーのテイルズ・フロム・ハドソンと言うアルバムは、まだ小さかった子供の相手で忙しく、久しくジャズを聴かなくなっていた頃に、ジャケット写真に惹かれてTSUTAYAで借りたのだった。その頃から少し余裕が出来て、また音楽を聴くようになった。SKYLARKはこのアルバムの収録ではないが。ブレッカーのインプロビゼーションは鬼気迫る感じ。
ところで、スタンダードの曲名とテーマメロディが紐付けされて覚えてる曲と、曲名は知っていてもメロディは覚えてないものの、聴けば「あぁこのメロディね」とわかる曲(メロディを聴いて知っていても曲名が浮かばないが、ジャケットなどに書かれた曲名を読めば知っている名前と言う曲)と、曲名は知っていてもメロディをまるで覚えてない曲と、さらにはどっちも知らない曲と、いろいろある。実は3曲もiPodに入っているSKYLARKは曲名は知っていたが、聴いてみたらテーマメロディもほとんど覚えていない部類だった。
6日夜、通夜のあと自宅に帰ってから、年末に通販で買っておいた日本酒を開けた。栃木県小山市にある小さな酒造のお酒に鳳凰美田と言う銘柄かあることは、長年、平日には宇都宮にいるので下戸の私でも、なんとなく知っていた。
下戸と言うか、極端にアルコールに弱いのに、嫌いではないと言うあまり聞かないパターンだ。昨秋の一時期、年齢とともにからだの新陳代謝が落ちたせいだと自己分析したのだが、以前よりも少しだけ多く飲んでも急激な気持ち悪さがやって来たり、血の気が引いて青くなり立っていられない、などの症状になりにくくなっている気がした。その代わりに酔いから覚めるのもずいぶん時間がかかるようになった、・・・気がした。これはもしかしたら肝臓には余計に負担がかかるパターンかもしれない。それでもまぁ、どちらかと言えば歓迎すべき状態に思えた。それが9月の頃。ところが、そのあとちょっとして、今度は正反対に、すぐに酔ってしまうように変化した。ずっと何年も、ビールならば350mlの一缶はかろうじて飲みきれたていた。真っ赤になって眠くなるにせよ、気持ち悪くなるまでは行かなかった。それが11月頃になると350mlの半分くらいしかダメになったのだ。かといって新陳代謝が良くなったとは思わない。理由はわからないがそうなっている。
11月か12月の休日に伊東市静岡県伊豆半島東海岸。温泉地)に行ったときに駅から続く(観光客向け要素の強そうな)商店街にあった酒屋で、何故だが鳳凰美田の張り紙を見付けた。なんで静岡県の酒屋で栃木の酒をそれほどに推すのか?と不思議に思った。帰りの電車の中で、気になって調べてみたら、なんだかここ数年急激に人気が高まっていて入手が困難なことが書いてある。それでも、栃木県内ならば簡単に手に入るだろうと思った。ある日の夕方に近所のオータニと言うスーパーへ、夕食の惣菜やら、出来るだけ毎日飲むことにしているヨーグルトや、半値になっている一人�・二人用のフルーツパックや、ミネラルウォーターを買いに行ったついでにお酒のコーナーを見に行ったが、四季桜や惣誉などの栃木県の銘柄が四つか五つか売られているものの、そうなのか、鳳凰美田はないんだな、と知った。その後日に宇都宮駅ビル二階の土産物売り場の地酒コーナーや、一階奥のスーパーのアルコール類のコーナー、さらには成城石井宇都宮パセオ店などもなにかのついでに寄ってみたが、やはり鳳凰美田は見付からなかった。
するとにわかに飲んでみたくなる。飲める量は一回あたりにせいぜい猪口に二杯ってところに過ぎないから、普通に飲める人にとっては利き酒試飲程度の量なのだ。だから720ml飲むには10回かそれ以上の回数を要する。しかもそれでも肝臓の値は悪いから毎日とは行かないのだ。しかしどうしても気になってしまい、はじめて日本酒を通販サイトから買ってしまった。鳳凰美田純米吟醸初しぼり。
そのお酒を6日の夜にとうとう開けてみた。
私の味覚はたぶん平均より優れていない。目に見える能力と比べて味覚の個人差はわかりにくい。だいたい歳を取ってきて蘊蓄じじぃになると、いかにも味覚が優れている風になって蘊蓄ともども高価なものを、わかったふりをして食べるのではないか。そこをついたのか、正月のバラエティ番組でも、芸能人に最上級の品と、一般品と、まがい物、を食べさせて本物を当てることが出来るかのクイズ番組が放送されていた。あれに私が出たら外しまくりのていたらくに違いない。
何年か前に、友人と四人で美味しい鰻の店に行った。もちろん、とても美味しい。しかし考えるに、スーパーの鰻でもない限り、鰻専門店に入って、すなわち有名どころでは宮川本店でも竹葉亭でも、湘南地区ならば大磯の国よしでも鎌倉のつるやでも、茅ヶ崎の近所なら東海岸のうな一でも香川のかわよしでも、私にとっては全部百点満点。あじが濃いとか薄いとか、甘いとか辛いとか、ふっくらしてる程度に差があるとか、なんとなーくは分かるけど優劣など付けられる高度な舌など持ち合わせていない。四人でとある鰻の店に行ったとき、誰かがここが一番だ、と言い出した。私は本当にこいつはそんなに繊細に味の優劣が付けられるほどに自分の中の確固たる基準があるのか?と疑問に思った。そこで、上に書いたような、味覚は優劣が付けられるわからないから蘊蓄じじぃになってカッコつけるのが簡単だよね論を話した。場が悪かったですね。なんか、しらけてしまって、まずかった。
と言う怪しい味覚の持ち主ではあるが、従って比較して綿密な順位など付けられる訳もないが、鳳凰美田はたしかに美味しい。思わず猪口に四杯も飲んでしまった。
すなわち飲み過ぎたのだった。結果、前後不覚となり、歯も磨かずいつのまにか寝ていた。7日になった深夜、7日は私の誕生日でちょうど産まれた時刻あたり、目が覚めて、トイレに行き、水を飲み、歯を磨いた。目が覚めてしまった。
こうして前夜に引き続き、深夜に起きていることに。今度はSKYLARKの収録されたCDをAmazonで検索して調べてみた。アニー・ロスの古そうなアルバムは中古で数十円しかしないで買える。YouTubeで、アニー・ロスの歌を聴いてみた。朗々として美しい。
アニー・ロスと言えば、もう15年かもっと前に、一人で京都を歩いていて、たまたまジャズと書かれたバーのような作りのドアを見付けて、エイヤッ!と入った店で、私が入るまではカウンターの常連客とマスターが何故か肉じゃがを食べながらラジオを聴いていたが、まさかはじめての客がやって来るとは!って感じで凍りついたようになり、そのあとにマスターがラジオを消してからかけたLPがランバート・ヘンドリックス&ロスのものだった。私が珈琲を頼むと、マスターは何故か厨房の奥にあるドアから向こうへと姿を消して、数分後に珈琲を持ってきたが、あれはドアの向こうで何があったのか?近所の別の店で珈琲を分けてもらったのか?店内にはマリリンモンローの写真やポスターがたくさん貼ってあった。
カウンターには私物がたくさん置かれていた。マスターが借りたのか図書館のシールの貼られた政治の本など。
夜中にいろんなことが芋づる式に思い出される。
これを機にSKYLARKの演奏を集めようかな。